ごまめの歯ぎしり

越山若水 10/19

最後の言葉はこうだったという。「詐欺師は至る所にいる。絶望的な事態だ」。その30分後だった。言葉の主の運転する車が爆発したのは。忌まわしい事件である。

亡くなったのは、地中海の島国マルタでニュースサイトを運営していた女性記者のダフネ・カルアナガリチアさん(53)。政治家の醜聞に厳しい人だったようだ。

腐敗しているとみれば、相手を「詐欺師」と書いて容赦がなかった。そういう記者の常で、すねに傷持つ政治家らには疎まれた。脅迫を受けていたとの情報もある。

きのうの本紙に載った事件をおさらいしたのは、彼女が「パナマ文書」報道の一員だったからだ。タックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴いたあの国際的なスクープである。

パナマの法律事務所から流出した1150万通の文書を元に、世界中から約400人の調査報道記者が協力した。日本からも、共同通信の澤康臣さんら複数社の記者が参加した。

極秘に続けられた分析取材の様子は澤さんの著書「グローバル・ジャーナリズム」(岩波新書)に詳しい。そして、各国の記者が常に命の危険にさらされている実情も。

大変な仕事だと業界自慢をしているのではない。世界の現実を、カルアナガリチアさんの事件で痛いほど実感したまでである。それにしても爆殺とは。見せしめにした邪悪さが許せない。ごまめの歯ぎしりだが。

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目次

はじめに

第1章 世界の極秘情報を暴いた「パナマ文書」
 1 匿名法人――その裏に政治家と犯罪組織が隠れていた
 2 調査報道記者たちの「史上最大の作戦」
 3 「今日から暗号化キーを持て」
 4 辞めた首相、怒った大統領、立ち上がった市民

第2章 グローバル化するニュースを追う
 1 アゼルバイジャンの独裁者が奪った富
 2 マフィアの大陸侵略を暴いた「イタリア・アフリカ各国記者連合」
 3 殺される記者 訴追されない犯人

第3章 新参NPOの乱入
 1 マックレイカーズ(肥やしをあさる野郎ども)の誇りと退潮
 2 スター記者集め、寄付は年間一〇億円
 3 欧州とアジアの風雲児

第4章 明かされる「秘伝」
 1 記者による記者のためのスクープ教室
 2 取材に応じてもらう秘策
 3 抑圧政府から身をかわす技法

第5章 そして日本は――
 1 調査報道を阻む「日本の壁」
 2 匿名社会が記者を阻む
 3 ニュースと市民と社会参加
 4 日本から未来へ、ジャーナリストの課題
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