軍国の母

天鐘 10/19

 古代ギリシャの都市国家の一つスパルタ。軍事優先の中で〝軍国の母〟がいた。戦闘が終わって、息子が死んだと聞いた母親たちは、戦場に行って息子の傷を調べたという。

アイリアノスが著した『ギリシア奇談集』(松平千秋、中務哲郎訳・岩波文庫)では、向こう傷が多い場合には遺体を運ぶ足取りも誇らしげに、祖先代々の墓に葬った。

逆に後ろに傷が多い場合は、母親は恥じて悲しみ、できるだけ人目に付かないように、自宅の墓地に運んだとか。勇敢に戦ったかが問われた時代だったのである。体面を除けば、息子の死を悲しんだに違いない。

先の太平洋戦争でも、軍国主義を強いられ、多くの母親が軍国の母として、息子たちを戦地に送ったことだろう。戦争の一側面がスパルタと20世紀を奇妙に結び付ける。

時代の推移で破壊力・殺傷力の違いがあるが、武器は戦いに欠かせない。最近の武器事情を見れば、米国が輸出で世界のトップという統計があるほど輸出大国だ。年内にも輸出を拡大する政策を発表するという。

武器の供給量が多くなれば、紛争や武力衝突はその深刻度を増すだろう。輸出拡大で雇用を生み、貿易赤字の削減も図るらしい。「米国第一」主義にはあきれる。もう軍国の母を生む状況があってはならない。新たな政策は、戦死者を思って泣く肉親だけでなく、戦火におびえる人々の絶望も考慮しているのだろうか。


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エウリピデスが酩酊した話

 ローマ時代(2~3世紀ごろ)の著述家アイリアノスは『ギリシア奇談集』は、ギリシアのポリス時代のさまざまな逸話を伝えているが、その中にエウリピデスのこんな話もある。

(引用)アルケラオス王(5世紀末のマケドニア王)が親しい友人たちのために盛大な宴会を催した時の話である。酒杯を重ねるうち、普通より強い酒を呑んでいたエウリピデスは、次第に酩酊に陥っていった。そのうちに同じ席にいた悲劇詩人のアガトンを抱いて接吻した――既にほぼ四〇歳の年配に達していたアガトンにである。アルケラオスが、あなたはアガトンをまだ恋しい相手だとお考えですかと尋ねると、エウリピデスが答えて、「そうですとも、美しいものがいちばん美しいのは春ばかりではありません、秋だってそうなのですよ」と言った。
<アイリアノス/松平千秋ら訳『ギリシア奇談集』岩波文庫 p.230>
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