かば焼きの味

あぶくま抄 9/19

 ウナギの価格上昇で庶民の食卓にウナギのかば焼きがのる回数が減っているという。ウナギよりだいぶ安いサンマを使う料理店も増えてきた。ふっくらとしてコクがある。実に美味だ。おまけに懐にも優しい。

 そのサンマも資源量の減少などにより値上がり傾向にあるというから心穏やかではいられない。潮の流れなど漁場の変化に加え、急速に需要を高める中国や台湾などの乱獲が一因という指摘もある。秋の食卓を彩る主役の影が薄くなると気をもむ人も多かろう。

 福島市のある男性はかば焼きに母の面影を見る。祝い事や家族の節目などのときには、母親が決まって腕を振るってくれた。身はいつもやや小ぶりながら、うま味はたっぷり。甘辛く炊いたタレが程よく絡まったご飯を夢中でかき込んだ。ウナギはおふくろの味だった。

 就職した会社から独立して起業した。がむしゃらに働き、順調に売り上げを伸ばした。ある日、久々に母親にかば焼きをねだった。まな板の上には大きなサンマが一匹…。驚く顔を横目に母はおどけてみせた。「あら、言ってなかった?」。料理上手ならではの暮らしの知恵だった。天上の母を思い、あの味を懐かしむ。
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