3手目

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 羽生さんは、講演のなかで、こんな話をされています。

 もうひとつ、ミスにミスを重ねてしまう理由として、「その時点から見る」という視点が欠けてしまうことがあると思います。
 将棋でいえば、先の手を考えていくときには、過去から現在、未来に向かって一つの流れに乗っていることが大切になってきます。「こういうやり方でいこう」とプランを立てたら、その道筋が時系列でちゃんと理屈が通っていて、一貫性があるのがいい。ところがミスをすると、それまで積み重ねてきたプランや方針が、すべて崩れた状態になるわけです。
 すでに崩れてしまったのですから、それまでの方針は一切通用しない。そのときやらなくてはいけないのは、「今、初めてその局面に出会ったのだとしたら」という観点で、どう対応すればよいかと考えることです。それが、「その時点から見る」ということです。
 実際の対局では、ミスをすると、ついついその場で反省と検証を始めてしまいがちです。もちろん、同じミスを繰り返さないために反省と検証は大切です。でもそれは、対局が終わってからでいい。ミスをした直後には、とにかく状況を挽回し、打開するために、その盤面に集中しないといけない。「こうしておけばよかった」などと過去に引きずられずに、「自分の将棋は次の一手からはじまる」と、その場に集中していくことです。これはもう本当に、意識的にやらなければうまくできないことだと思います。

 先入観を持たずに「今、初めてその局面に出会ったのだとしたら」という立場から考えてみることが大事なんですよね。
 「こうであるはず」という思い込みが、判断力を鈍らせたり、異常に気づかない原因になったりすることは、ものすごく多いのです。


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水や空 7/13

 ある番組で棋譜を渡された。ものの1~2分で覚え、その場で詰みの局面を再現したという。100手ほどを丸暗記しないとできないそうで、門外漢ながらも「あり得ない」とひるむ。

そんな数々の逸話を残す羽生善治三冠の言葉は、自分には「猫に小判」かな。そう思いつつ読んだ講義録が不思議と味わい深い。この人さえもそうなのか。ためらう、迷う。そんな心の揺れが語られ、ぐいと引かれる。

例えば「3手の読み」の難しさ。最初の手は好きにやればいい。2手目の相手の出方を推し量り、3手目をどう指すのかが難問だ、と。

2手目をつい「自分ならどう指すか」と考えてしまうらしい。相手の立場で相手の頭の中を読むことの、いかに難しいことか。「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」(文春新書)から引いた。

もはや勝っても小さなニュースだが、ご当人はその方が伸び伸びやれるのかもしれない。歴代最多の29連勝を達成した将棋の最年少棋士、藤井聡太四段が、14歳最後の公式対局で勝った。

想像するばかりだが、きっと相手の頭の中を読むという希有(けう)な資質を、14歳で備えているのだろう。少年はどこまでまぶしさを増すことか。望外の結果です、僥倖(ぎょうこう)としか言いようがない...。大人にもまねのできない言い回しで、当人は謙遜するにせよ。
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