くまのパディントン

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中日春秋 6/30

二十七日に九十一歳で逝った英国の作家マイケル・ボンドさんが、そのクマに出会ったのは一九五六年のクリスマスイブのことだった。

家路を急ぐ彼の目に、売れ残って店先にぽつんと置かれたクマのぬいぐるみが、飛び込んできた。見捨てられたような姿に切なくなったボンドさんは、妻への贈り物として買い、自宅近くの駅にちなんでパディントンと名付けた。

このクマを見ているうち、ボンドさんの頭の中で物語が動き始めた。「クマがひとりぼっちで駅に現れたら、どんなことが起きるだろうか?」

そのときボンドさんの脳裏に、ある光景が浮かんだという。戦時中、空襲を逃れるために親元を離れ、スーツケース一つで迷子にならぬための札を首に下げ、列車で疎開した子どもたちの姿だ。

そうして生まれたのが、名作『くまのパディントン』。スーツケース一つ持ち、ひとりぼっちで未知の国にやってきて、「どうぞ このくまのめんどうをみてやってください。おたのみします」と書いた札を首から下げたクマ。その姿には、孤独や不安にたちむかう子どもたちへの、作家の思いがたっぷり詰まっているのだ。

『パディントン』は、半世紀にわたり三千五百万部も売れる人気シリーズとなった。売れ残りのクマのぬいぐるみが、世界中の子どもたちをわくわくさせ続ける贈り物となった。そんなすてきな物語である。

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