ひふみんアイ

水や空 6/26

 先日、現役最後の将棋を終えた加藤一二三・九段の若き日のエピソードである。タイトル戦の大舞台で長考に沈みながら彼は考えた。この局面、相手の目にはどう見えているのだろう、何かいい手はないか。

と、相手が席を外した。「相手の方にぐるっと回って、盤面を見渡しました。そうしたら何と、素晴らしい手が浮かんできたんです」。この手を境に加藤さんは優勢を築く。

ルール違反ではないが、行儀はよくない。記録係はさぞ面食らったことだろう。第一、プロ棋士なら、頭の中で盤面をひっくり返すぐらい造作もないことだ。ただ、実際に視点を切り替えてみたら、違う景色が見えた-という述懐は傾聴に値する。

ちょうど1週間前、安倍晋三首相が通常国会での自らの答弁について「深く反省している」と述べた。〈内閣支持率の急落を踏まえ、低姿勢を強調した格好〉と解説があったが。

その「低姿勢」が、どうにも伝わってこない。「強い口調」がまずかったのなら、さっさと改めればよかった。会期を延ばして「丁寧な説明」に臨む手もあった。

ネットの将棋中継では、盤の上下を反転させて映す機能が「ひふみんアイ」の名で親しまれている。首相も会見の動画を国民目線で眺めてみるといい。「謝ったふり」の自分がきっと見つかるはずだ。

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