大一番

時鐘 06/26

 知(し)らぬふりを決(き)め込(こ)んでいたが、もう限(げん)界(かい)である。きょう、新(しん)記(き)録(ろく)となる29連勝(れんしょう)に挑(いど)む大一番(おおいちばん)がある。

14歳(さい)の最年少棋士(さいねんしょうきし)は、どんな表情(ひょうじょう)で対局(たいきょく)に臨(のぞ)み、どんな思(おも)いを口(くち)にするのか。吹(ふ)けば飛(と)ぶようなコマの勝負(しょうぶ)が、将棋(しょうぎ)ファンならずとも大(おお)いに注目(ちゅうもく)を集めている。まだ14歳。肩(かた)にかかる重(おも)荷(に)が少(すこ)しでも軽(かる)くなれば、と無関心(むかんしん)を装(よそお)う知らんぷりを続(つづ)けてきた。

頼(たの)まれもしないのに、親心(おやごころ)に似(に)た感情(かんじょう)が湧(わ)く。憎(にく)らしいほどの強(つよ)さではなく、素直(すなお)さがぎこちなくネクタイを締(し)めたような好感(こうかん)度(ど)あふれる少年(しょうねん)棋士である。その小(ちい)さな肩が、重すぎるほどの期待(きたい)に耐(た)えている。下手(へた)に騒(さわ)ぐと、つぶれてしまうのではないか、という心配(しんぱい)が頭(あたま)をかすめる。だから選(えら)んだ知らんぷりである。

快進撃(かいしんげき)を横(よこ)目(め)で追(お)ううちに、一つ学(まな)んだ。黒星(くろぼし)が付(つ)きものの勝負の世界(せかい)である。少年棋士にも早(そう)晩(ばん)、無念(むねん)の日(ひ)が来(こ)よう。が、そのとき流(なが)す苦(にが)い涙(なみだ)は、すぐに明日(あす)の糧(かて)へと変(か)わるだろう。伸(の)び盛(ざか)りの14歳なら、それを大人(おとな)よりも数段(すうだん)やすやすとなし遂(と)げるに違(ちが)いない。

知らんぷりをしている間(あいだ)にも、少年は大きくなり、まぶしくなった。
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