ひふみんと藤井四段

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小社会 6/22

 「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」。1951年、連合国軍最高司令官を解任されたマッカーサー元帥が日本から帰国し、米上下両院合同会議での演説の締めくくりに用いた言葉だ。実際には消え去らなかったのだが。

 そんな昔話を思い出したのは、将棋の現役最高齢記録を持つ加藤一二三・九段が引退したから。最後の棋戦で敗退したためだが、投了後、「きょうはコメントはありません」との言葉を残して静かに対局場を後にしたという。

 14歳7カ月で史上初めて中学生のプロ棋士となり、77歳の今日まで63年間に及んだ現役生活。色紙に好んで書く「直感精読」通りの深い読みで数々の名勝負を演じ、名人位などを獲得した。記録はむろん、長く記憶に残る棋士だろう。本当にお疲れさまでした。

 その最年少記録を5カ月短縮し、昨秋プロ入りした藤井聡太四段。デビュー戦で加藤九段に勝ったのを皮切りに、公式戦での連勝記録が歴代最多の28に並んだ。神谷広志八段の記録は1986~1987年度のものだから、30年ぶりの快挙となる。

 非公式戦ながら藤井四段に敗れた羽生善治3冠の言葉が、その強さを物語る。「攻守のバランスがよく、非常にしっかりしている将棋だ」。7月で15歳になる規格外の中学3年生はこの先、どこまで成長していくのか。

 勝負の世界にあって、新陳代謝は活性化への大きな力となる。新記録が懸かる6月26日の次回対局が待ち遠しい。

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南風録 6/22

 無人島に何か持っていくとしたら、何を持っていきますか。こんな質問に「(将棋界の第一人者である)羽生善治さん」と答えたという。引退が決まった最高齢棋士の加藤一二三・九段である。

 どこまでも将棋が好きなのだろう。最近テレビで見掛ける「ひふみん」の人柄を知り、この珍回答を少し納得できるようになった。中学生だった14歳でプロ入りし、77歳まで将棋一筋の人生だ。

 「神武以来の天才」と呼ばれ、名人など数々のタイトルを獲得した。ライバルが次々と引退し、棋士としてのピークを過ぎても闘志は衰えなかった。勝てば最高齢の勝利記録、負けて引退という対局で締めくくったのもこの人らしい。

 伝説の棋士の引退から一夜明けて、中学生棋士の藤井聡太四段が歴代最多の28連勝に並んだ。デビュー戦の相手を務めたのが加藤さんだ。因縁を感じる。

 トップ棋士が立て続けにコンピューターソフトに敗れる時代である。成長する人工知能と人間はどちらが強いかという問いの結論は出たのかもしれない。それでも将棋の神様に選ばれた天才が知力を振り絞る戦いの物語は、人々を魅了する。

 去る77歳と挑む14歳は、1000年を超える将棋の歴史で半年間だけ交わった。加藤さんが63年で重ねた勝ちは1324、負けは1180。勝って喜び、負けて涙するから人は面白い。藤井四段はどんな物語を紡いでくれるだろう。

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有明抄 6/22

藤井聡太28連勝

 「早く名人になって、将棋をやめたい」。10代の終わりに、そんな言葉を吐きながら盤に向かった棋士がいた。将棋界最高峰のA級に在籍したまま、がんのため29歳で早世した村山聖(さとし)である。自分には時間がなく、頂点にさえ立てれば悔いはないとの強い思いが伝わる。

幼くして腎臓の難病に侵され、病の床で将棋と出合う。それは魅力に富み、心を解放してくれるものだった。いわゆる「羽生世代」の一人で、ライバル羽生善治三冠は「感覚が鋭い。命がけで指していた」と評した。村山にとっては強くなること、目の前にある将棋に勝つことだけが支えだったという(大崎善生著『聖の青春』)。

勝負師とはそういうものだろう。ここにも勝つことに懸ける少年がいる。デビュー以来の公式戦連勝記録を歴代最多タイの28とした藤井聡太四段である。「望外」「醍醐味(だいごみ)」などと中学生とは思えない語彙(ごい)力を発揮する。きのうも大物の風格で勝利の弁を語った。

幼少時から「闘争心の塊」と言われた。はるか年上を相手に無難な手ではなく、リスクを負いながらも勝ち目がある手を選ぶ。負ければその悔しさを次の対局にぶつけて成長した。

村山にとって将棋は、大空を自由に駆ける翼のようなものだったという。藤井四段も翼を得て、のびのびと大器に。後に続く子どもたちの夢を乗せて-。


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水と空 6/22

加藤九段引退
 「フラッシュの点滅にご注意ください」。30年ぶりの大記録を成し遂げ、大勢の取材陣に囲まれて控えめな笑顔で喜びを語る14歳を画面で眺めながら、前の夜、同じ戦いの舞台から無言のまま足早に去った77歳のことを考えた。

既に引退が決まっていた現役最年長棋士の加藤一二三・九段。一昨日の敗局が最後の将棋になり、63年間の棋士生活に幕が下りた。通算1324勝はもちろん大記録だが、積み重なった1180敗も驚異的な数字。

この日の将棋は中盤で形勢を損ね、一方的に押し切られた。自玉に詰み筋が生じた最終盤、長い離席から戻ると相手に「(局後の)感想戦は無しで」と告げて直後に投了。取材にも応じずタクシーに飛び乗った。

終局後の振る舞いには「非常識だ」「大人げない」と批判の声も上がった。ただ、それほど将棋に詳しくない同僚は「その年齢になって、そんなにも『悔しい』と思えるハートがすごい」と、温かめの感想をもらしていた。同感である。

丸1日過ぎた昨日は気持ちも落ち着かれたのか、ニュース番組にゲストで登場。ケロリといつもの早口で表情豊かに「藤井将棋」を語っていた。

大物ルーキーの快進撃が"社会現象"になりつつある。加藤さんも引っ張りだこの日々が続きそうだ。お別れの言葉はゆっくり聞こう。

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