国民の目

越山若水 6/21

人間とは何ともずるい生き物である。個人レベルでは心優しく善良なのに、集団社会になると平気で悪さをする。誰も見ていない、他の人もやっているから…と。

それを証明する興味深い実験を英国の動物行動学者、メリッサ・ベイトソンが行っている。その詳細が「モラルの起源」(亀田達也著、岩波新書)に載っている。

お金を払えば自由にコーヒーを飲める機械がある。自主的な代金納入が前提で、ただ飲みする者がいたら運営は厳しい。とはいえ見張りを立てるとコストが大きい。

そこでコーヒールームにこんな仕掛けを施した。ある週はきれいな花の写真を飾り、次の週は人の目の写真を貼りだした。数種類を試したところ、人の目の写真だと代金の回収率が大幅に改善された。

中でも「怖い目」が最も効果的だったという。ベイトソンは「誰かに見られている」「規範を破ると罰則を受ける」と案じる気持ちが、社会規範の逸脱を防いだと分析した。

内閣支持率が急落した安倍晋三首相が、加計(かけ)学園問題など通常国会での強気の答弁を謝罪した。その理由は「他人の目」に恐怖心を覚えたからだろう。

「真摯(しんし)に説明責任を果たす」と低姿勢を示したものの、特定秘密保護法や安全保障関連法の局面も乗り越えた自信か、端々に「安倍1強」のおごりが見え隠れする。独走する政治のブレーキは「国民の目」である。
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