イイコ(子)ニ

中日春秋 6/14

ヒョウと「ある動物」が喧嘩(けんか)になった。それを見ていた女の子が仲裁に入るが、ヒョウに食べられてしまう。嘆き悲しんだのは「ある動物」。黒い喪章を着けて女の子の冥福を祈ったが、どうしても涙が止まらない。

あふれる涙をぬぐっているうちに喪章の色が溶け出し、その体の一部が黒く染まった。中国の四川省に残る伝説だそうだ。「ある動物」とはジャイアントパンダである。なるほど目の周りが特に黒い。

あの黒が悲しみの涙のせいだとすれば、喜びで黒色が薄くなるのかしらん。そうおどけたくなるおめでたである。東京・上野動物園のパンダのシンシンが十二日、赤ちゃんを無事に出産した。赤ちゃんを口で軽くくわえたシンシンの写真。こちらに「見て見て」と言っているようである。

母子とも健康と聞き、ほっとするが、難しいパンダの育児である。シンシンにも飼育員にも、しばらくは気の休まらぬ日々が続く。前回の赤ちゃんは出産から六日後に死んでいる。

当時、シンシンが育児に不熱心だったかのような噂(うわさ)もあったが、出産後のシンシンは疲労と緊張で二、三日、飲まず食わずだった上、ほとんど寝ていなかったと聞く。それでも赤ちゃんが声を上げれば、抱き上げていた母親パンダを思えば、どうか今度こそはと祈るばかりである。

出産時刻は午前十一時五十二分。「イイコ(子)ニ」。そうつぶやく。
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