忖度

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今年話題になった言葉の筆頭格に「忖度(そんたく)」が入るのは間違いなかろう。他人の心中をおしはかること(広辞苑)。中国の古典にさかのぼる漢語である。近ごろは、権力者の意をくんでおもねる負のイメージにまみれてしまったのが残念だ。

上ははっきり指示しないから問題が起きても責任が及ばない。下はそれとなく意を察し、立ち回ることが有能とされる。企業不祥事でも目立つ責任逃れの構図である。忖度は適当な英訳がない。そのまま“Sontaku”と紹介した海外の新聞もある。

日本独特の組織文化と思いきや、ホワイトハウスでも似たことが起きるらしい。トランプ大統領に解任されたコミー前FBI長官が上院で証言した。「この件は手放してほしい」。大統領から明確な命令ではないが、ロシアをめぐる政権の疑惑捜査の中止を要請されたというのだ。

2人だけの会話だと後でうそをつかれるかもしれない―。筋金入りの元連邦検事はそう直感し、面会や電話で話した後は必ず内容を書きとめ部下に見せた。最強の権力者に対して信念を曲げず、わが身と組織を介入から守ろうとした意識はさすがである

「組織を混乱させた」との言い掛かりで誇りある職を追われた憤りもあったろう。さて長年、教育行政に携わった誇りを官邸に傷つけられた前文科事務次官の心中はどうか。与党が拒む国会の証人喚問でぜひ聞きたいところだ。長いものには巻かれろの忖度文化をはびこらせてはなるまい。

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