1%の創造

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中日春秋 6/8

「将棋指しは十八のとき、四十の顔になっている」。三十年前に没した棋士・芹沢博文さんは、若き日の天才棋士・中原誠さんを、そう評したという。

将棋界のスターたちを活写した『盤上の人生 盤外の勝負』で、河口俊彦さんは書いている。<中原にかぎらず、加藤一二三(ひふみ)、谷川浩司といった早熟の天才たちは、十代のころから落ち着き払い、軽率な行動など絶対になかった。そして四十歳になっても…若者のようなところがあった>

この少年は、十八どころか、まだ十四歳。「神武以来の天才」とうたわれた加藤一二三九段とのデビュー戦から公式戦二十連勝を達成したとき、こう語った。「自分の実力からすれば、僥倖(ぎょうこう)としかいいようがない」。芹沢さん流に言えば、将棋界の新星・藤井聡太四段は「十四にして、四十の言葉を語る」のだ。

連勝を二十三まで伸ばし、羽生善治三冠らを抜いて歴代三位になった。何ともまぶしい限りだが、藤井さんには過去の天才たちとは違う生涯の宿敵が待つ。人工知能(AI)だ。

羽生三冠はAIについて、こういう見方を示している。「私の考えでは、創造というものの99%は、過去にあったものの今までになかった組み合わせ。最適化はAIの得意分野だが、残り1%の、根本的なセオリーを変えるような創造は生まれづらいと思う」

その1%の創造に、藤井さんはどう挑むか。

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羽生、森内、佐藤康光、中原、大山、内藤、有吉、加藤一二三ら名棋士を、棋界きっての文筆家が描く。76歳ってんだから、将棋界の生き字引みたいな存在。
期待を裏切らず、具体的なエピソードぞろい。
羽生が将棋会館の建設のために奔走したにもかかわらず、裏切られて否決されたこと。それにより棋界運営というよりはチェス等孤高の人になってしまったこと。これは知らなかった。
米長の、権力争いの中で人物がいろいろと変わってしまったこと。
B級1組は、名人になる器の人は簡単に通して、運で上がった人はたたき落とす、というのも面白い。
筆者も嘆いているが、昔の方が個性豊かな棋士が多かったことは間違いない。いいも悪いも、だが。しかし我々は著者の文章で記憶に残すことはできる。幸いなるかな。


プロの将棋棋士の筆者が、トップ棋士11人の肖像を、盤上と盤外のエピソードを交えて紹介している。この本では主役でないが、大山康晴が勝負師として人間臭く、彼を中心とした世界だったことがよくわかる。頂点に立つ頃の中原、谷川、羽生の振る舞いも他の棋士と違っていたことが興味深い。一方で、最近のプロには人間臭さが感じられなくなってきているのが、個人的に気になる。AIの台頭や藤井四段の登場で、変化が激しい将棋界には注目している。
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