トランプなのにハートがない。喝!

時鐘 6/3

あの大統領(だいとうりょう)が今度(こんど)はパリ協定(きょうてい)からの離脱(りだつ)を表明(ひょうめい)したというニュースを聞(き)き、落語家(らくごか)・林(はやし)家木久扇(やきくおう)さんの言葉(ことば)を思(おも)い出(だ)した。「トランプなのにハートがない。喝(かつ)!」

テレビの長寿番組(ちょうじゅばんぐみ)「笑点(しょうてん)」で見(み)た一(ひと)コマ。「おバカ」キャラの木久扇さんは、珍問答(ちんもんどう)や迷答(めいとう)が身(しん)上(じょう)。悪評(あくひょう)が際立(きわだ)つ海(うみ)の向(む)こうの大統領を指(さ)して「ハートがない」という一刀両断(いっとうりょうだん)に、会(かい)場(じょう)はビックリ。大(おお)きな拍(はく)手(しゅ)と褒美(ほうび)の「座布団(ざぶとん)1枚(まい)」に鼻高々(はなたかだか)だった。

離脱は、地球温暖化(ちきゅうおんだんか)防(ぼう)止(し)の取(と)り組(く)みに水(みず)を差(さ)す。専門家(せんもんか)が山(やま)ほど解(かい)説(せつ)や背景(はいけい)の講釈(こうしゃく)をするだろうが、木久扇さんの喝は、駄洒落(だじゃれ)の域(いき)を超(こ)えて真(しん)を穿(うが)つようにも思(おも)える
木久扇さんのギャグの一(ひと)つに、ちゃんとした答(こた)えが浮(う)かんでいないのに手(て)を上(あ)げる「芸(げい)」がある。運(うん)悪(わる)く指名(しめい)されると、困(こま)り果(は)てて「あのねぇ」。ひょっとして、あの大統領も「あのねぇ」のお仲間(なかま)か、と失(しつ)礼(れい)ながら不謹慎(ふきんしん)な連(れん)想(そう)まで浮(う)かぶ。

ハートのないトランプでは、ポーカーをしても、ろくな手(て)はできない。ババ抜(ぬ)きなら、実(みの)り少(すく)ない時間(じかん)ばかりを浪費(ろうひ)する。大事(だいじ)なのは、まさしくハート。日本(にほん)の話(わ)芸(げい)、侮(あなど)るべからず。


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鳴潮 6/3

 劇作家ブレヒトの戯曲「ガリレオの生涯」に、こんなせりふがある。<真理を知らぬ者は馬鹿だが、真理を知りながらそれを嘘(うそ)だと言う者は犯罪者だ!>(谷川道子訳)
 
 ガリレオの時代、16~17世紀は、空の星々が地球の周りを回っているとする天動説が絶対だった。改良した望遠鏡で天体観測を続け、地動説の正しさを確信したものの、宗教裁判にかけられ、自説を撤回させられる。「それでも地球は回っている」はガリレオの言葉として有名である
 
 こちらは、「それでも温暖化はでっち上げだ」と言いたいらしい。トランプ米大統領が、温暖化対策の新枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した。ガリレオと同じく時代の少数派ではあるが、科学に対する態度は全く違う。不都合な事実より、目先の経済が大切なようである
 
 多くの意見を聞いての判断という。科学者の常識を知らないはずはない。その上での判断とすれば、一層罪深い
 
 世界第2位の温室効果ガス排出国が今、足踏みすれば深刻な影響が出かねない。一国の元首に「犯罪者だ!」というほどの暴言は控えたいが、被害に直面する未来の当事者なら遠慮はないはずである
 
 温暖化対策と経済成長は両立しない、というのは昔話。将来にわたって名誉も失う。まるで得のない、ソロバンの合わない選択だと、なぜ気づかない。

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正平調 6/3

ごみ捨て場からちゃぶ台を拾ってきた人がいた。もったいない、何かに使えないかと。そんなエコ精神が始まりともいう。毎年6月、岩手県矢巾(やはば)町で「ちゃぶ台返し世界大会」が開かれている。

かっぽう着姿のお母さんが叫ぶ「やめてえ」が開始の合図だそうだ。参加者は頑固おやじよろしく、日ごろの不満をぶちまけながら、ちゃぶ台をひっくり返し、その上に載ったサンマのおもちゃの飛距離を競う。

サンマはどこまで飛ぶか。そんな冗談も笑えない、世紀のちゃぶ台返しといっていいだろう。「エコより経済」と吠(ほ)え、「やめてえ」の声に耳を貸さず、トランプ米大統領が「パリ協定」からの離脱を表明した。

このまま温暖化が進めば、子孫は地球に住めなくなるかもしれない。協定はそれを避けようと、どうにかこうにかまとめ上げた決まり事である。その影響を考えたら、離脱はとても大国の振る舞いとは思えない。

映画「不都合な真実」で温暖化の危機を訴え、ノーベル平和賞を受けたアル・ゴア元米副大統領が述べている。「未来の子どもたちに、なぜ何もしてくれなかったの? と問われたら、私たちは何と答えるか」

さあどうする? トランプ父さん。やけくそじみたちゃぶ台返しからは答えが見つかりそうにない。

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斜面 6/3

子どものころ小さな生き物に平気でいたずらをした。トンボの尾に茎を差して放す、カエルを器に入れて温める…。「ゆでガエル」どころか、すぐ逃げられた。緩やかな変化には鈍感になる例えとされるカエルだが、実際は素早かった。

 人は危険が迫っても大したことはないと考え何もしない傾向がある。心理学で「正常性バイアス」と呼ぶ心の偏りだ。ささいなことまで気にしていては不安で生活できない。進化で備わった特性という。同類扱いされたカエルの方こそ迷惑ということか。

 一見、野性的に見えるトランプ大統領も強い正常性バイアスの持ち主らしい。地球温暖化の原因となる温室効果ガスなど心配ないと言わんばかり。「米国は協力しない」と表明している。世界2位の排出大国が、せっかく190カ国以上で合意した協定から離脱とは穏やかでない。

 悪者扱いされる化石燃料産業を振興して雇用を守り、負担が大きい途上国支援はしないという。自国に有利な協定なら認めるというから、温暖化が虚説とまでは思っていないようだ。科学に基づく予測よりも目先の経済利益を優先しようとの姿勢である。

 ビジネスは持ち前の楽観と強気で成功したが、地球のかじ取りはそうはいくまい。重視する産業競争力も、斜陽の化石燃料を守っていては出遅れよう。完全雇用に近い今なら産業の構造改革もしやすいはず。やはり、自国だけは大丈夫との本能が働くのか。一緒に釜ゆでになるのは御免だ。

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卓上四季 6/3

まず、サラリーマン川柳を。<温暖化/おなかの肉は/段々化>。温暖化と肥満の組み合わせ。ちょっと暑苦しくも感じるが、語呂の良さから思わずニヤリとさせられる。ところが、当の温暖化は笑えないところまで来ている。

現状のペースで進めば10~20年の間に南極の氷が解けだして海面が上昇。世界各地の海岸が水没して、多くの難民が発生する。そんな怖い予測も語られている。

日本近海でも寒暖差による海水の循環が滞って深海に酸素が供給されず、深海生物が死滅する恐れも指摘され始めた。イカやサンマなどの不漁ばかりか、海そのものが危機のただ中にある。そう言ってもいいだろう。

そこで期待がかかるのは、2020年以降の温暖化対策をまとめた国際的枠組み「パリ協定」だ。しかし、それも骨抜きになる可能性が出てきた。「気候変動問題はでっち上げ」と公言してはばからなかった米国のトランプ大統領が、協定からの離脱を表明した。

トランプ氏は石炭産業の復興やエネルギー開発を優先する大統領令に署名し、温暖化対策に逆行する政策を進めていた。そして、離脱宣言。温室効果ガス排出量で世界第2位の米国の動向によっては、次なる離脱国が出てくるかもしれない。

5日は「世界環境デー」。その前に「自国だけが良ければいい」との我欲を捨て、みんなの地球を守る―。そんな気持ちを共有したかったのだが。
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