速やかに

卓上四季 6/2

「速やかに」「直ちに」「遅滞なく」。よくお役所や企業で交わされる言葉だが、それぞれの違いを分かりやすく示せと言われたら、なかなか難しい。

こんな一文がある。<即時性の最も強いのが「直ちに」であり、次いで「速やかに」、さらに「遅滞なく」の順に弱まる>。国語学者の分析かと思いきや、1962年に出された大阪高裁判決の一節である。

譲り受けた日本刀の教育委員会への届け出を「速やかに」とした銃刀法の条文が曖昧かどうかが、争点になった。解釈の余地はあるにせよ、「速やかに」には、それなりの合理性があるとした。具体的な日数を決めると、病気やけがなど不測の事態に対応できないためだという。ところが、「速やかに」では誤解が生じ、問題が起きた。今は法改正し「20日以内」としている。

きのう衆院委員会で可決された天皇退位特例法案。付帯決議案で政府が「女性宮家等の創設」を検討する期限について「法施行後速やかに」との表現を使っていた。

以前、小欄で取り上げた官僚用語「霞が関文学」によれば、「可及的」が付いていない「速やかに」は、すぐに取り組まないとの意味を含むらしい。女性宮家の創設に賛否があるからといって、議論も先送りするとは思いたくもないが、やはり具体的なめどが見えない。

詠み人知らずの川柳を思い出した。<今やります/どれだけ待ったら/今になる?>

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1 速さの順位
この3つの言葉の意味は、いずれも「すぐに」という意味ですが、その速さに違いがあります。もっとも時間的即時性が強い言葉は「直ちに」です。次に速さを求められる言葉は「速やかに」です。時間的即時性が最も弱いのが「遅滞なく」です。

2 直ちに
この意味は「即時に」という意味です。いかなる理由をもってしても遅らせてはならないという響きのある言葉です。
憲法34条前段は「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と規定していますが、ことの重要性が分かる規定です。
 
3 速やかに
この意味は「できるだけはやく」という意味です。
法令でこの言葉が使われるときは、訓示的な意味で使われる場合が多い、とされています。
つまり、「速やかでなかったとしても制裁を受けない」ことが多いのですが、銃砲刀剣類所持等取締法23条は「銃砲又は刀剣類を発見し、又は拾得した者は、すみやかにその旨をもよりの警察署に届け出なければならない。」と規定し、これに違反した者は同法35条2号により20万円以下の罰金に処せられることになっていますので、この場合は、「速やかに」は訓示的規定ではないことになります。

なお、同法の別の条文で、登録を受けた刀剣を譲り受けるなどした者は、「速やかに教育委員会に届出しなければならない。」という規定があったとき、登録を受けた日本刀一振りを取得しながら7ヶ月以上も届出しなかった被告人が起訴された事件で、1審の裁判所は、「速やかに」という言葉はその内容が不明確であり罪刑法定主義に違反するとして無効、したがって被告人を無罪としたことがありました。しかし、この件は、控訴審では、罪刑法定主義に違反しないとして被告人を有罪としましたが。
なお、この条文は、現在は「速やかに」を「20日以内に」に改正されています(同法17条)。

4 遅滞なく
この意味は「合理的理由があればその遅れは許される程度の速さ」を意味します。
民法853条1項は「後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し・・・」と規定していますが、この意味になります。
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