新分子

201706010514240e4.jpeg

2017060105142233d.jpeg



中日春秋 6/1

「二〇五〇年に着工できればという話ですが…」と、静岡大学の山極芳樹教授が口にするのは、宇宙エレベーターの建設構想だ。

三万六千キロかなたの宇宙空間に浮かぶ静止軌道ステーションと地表をエレベーターで結ぶ。夢のような話だが、それは既に単なる夢ではない。日本学術会議が政府に研究支援を提言する「マスタープラン」に選定された現実の研究課題である。

その実現に欠かせぬのが、総延長十万キロにもなるワイヤの開発だ。とにかく軽く、とてつもなく強い。そんな夢の素材として期待されるのが、ダイヤモンド並みの強度を持つ炭素物質カーボンナノチューブだが、均質に作るのが難しいという難があった。

そういう状況に突破口を開いたのが、きのう中日文化賞を受賞した名古屋大学の伊丹健一郎教授だ。炭素原子がベルト状に連なった新分子・カーボンナノベルトの合成に世界で初めて成功し、炭素物質の世界で新地平を切り開いたのだ。

宇宙エレベーター実現にも寄与する大成果だろうが、ご本人は「そういうのは、ある意味、おもしろくないのです」と意外なことを言う。

軽く強いのは当たり前。「新たな分子を見つければ、それまで想像もしなかったような、新たな働きも見つかる。それが魅力です」。極小の分子世界に潜む無限の可能性を探索する。それは宇宙開発にも負けぬ壮大な挑戦なのだろう。
関連記事