子どもたちへの詫(わ)び状

いばらき春秋 5/28

「分からないなら黒板に聞け」。授業で質問に答えられないと、髪の毛をつかまれ、黒板に頭を打ち付けられた。小学2年時の担任は特異な指導法を実践する女性だった。

ある帰りの会で担任は男子児童の1人を立たせ、この児童が同級生に送ったという手紙をゆっくりと読み上げた。淡い恋心をつづった内容だった。

担任の振る舞いに嫌な気持ちになった。「先生は人間として許されないことをしている」。40年以上も前のことだが、よく覚えている。

福岡県の中学校で教員を務めた村上通哉さんの著書「子どもたちへの詫(わ)び状」を手にしたのは、大学生の頃だ。教え子に宛てた手紙47通が収録されている。読んでいて何度もこみ上げるものがあった。

中学卒業後に小学校時代の出来事を打ち明けた女子生徒への手紙も胸を打つ。女子生徒は、教室でなくなった現金を盗んだと当時の担任に決めつけられた経験を2回も持っていた。著者は教育に携わる一人として謝罪の言葉を記した。

同書には子どもたちとしっかり向き合い、それでも痛恨の思いを抱き続ける教育者の誠実さがあふれていた。最後の教え子たちに向けて、著者は語り掛ける。「一歩でも近い所にいて、一緒に歩いていたかったのだ」 


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暑い夏の季節が来ると、教員採用試験を思い出します。個人的なことですが、30 年以上 も前、私自身も皆さんと同様に苦闘した日々を過ごしました。教育実習を終え、採用試験 の勉強が本格化していく方も多いと思います。皆さんの今の努力が秋にむくわれることを 祈念しています。
「夜スペ」の講義中に何度となく皆さんにお伝えした『教師としての不十分さ』*1を忘 れないでいてください。教師としての不十分さを常に意識していないと、生徒の表層だけ を見て誤った判断をしたりすることがあります。マイナス 200 度の氷がマイナス 100 度の 氷になったとしても、外見上その形状に変化はありません。マイナス 100 度の氷が 0 度に なった時に、氷は解け出します。前者の営みは長い。皆さんが教壇に立っている間に、そ の 100 度の変化を見ることはできないかもしれません。その長い営みの中で、『教師として の不十分さ』をいつまでも持ち続けてください。
そして、100 度の変化のためのたゆまぬ努力と 100 度の変化をただ待つだけの姿勢が、 皆さんの心から消滅してしまう時がきたなら、その時は、潔く教壇を去ってください。私 が皆さんにお伝えできるのはそれぐらいのことなのです。
ともに、がんばりましょう。

*1村上通哉「子どもたちへの詫び状;電気がない」より

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東山魁夷と子どもたちとの心温まる交流を中心に画伯との出会いを綴った実話。教科書の「花明り」の作者に子どもたちが手紙を書いたことに始まり、絵本館の成立まで、独創的な教育を実践したひとりの教師の感動の記。


<目 次>

序 東山すみ

1 はじめに――人間・東山魁夷との出会い――

2 「風景との出会い」

3 文化祭「国語教科書原作者生原稿展」
 1 夢の文化祭
 2 原作者の先生方へ手紙を書く
 3 原作者の先生方から原稿が届く
 4 東山魁夷先生より原稿が届く
 5 さらに原稿が届く
 6 国語教科書原作者生原稿展
 7 文化祭、その後

4 「唐招提寺への道展」
 1 東山画伯より招待状が届く
 2 記念講演会
 3 東山画伯と会う
 4 子どもたちの感動

5 修学旅行
 1 「花明り」の桜と「唐招提寺」を見たい
 2 感動を追う修学旅行 
 3 ロダンと須田国太郎
 4 東山画伯へお願いの手紙を書く
 5 東山画伯からの返事
 6 日程
 7 東山画伯からの電話I
 8 東山画伯からの電話II
 9 新聞社の同行取材
 10 東山画伯より速達が届く
 11 「花明り」の“しだれ桜”を見る
 12 生きている教科書
 13 唐招提寺の障壁画を見る

6 修学旅行の後で
 1 東山画伯の教え、そして“しだれ桜”
 2 文化祭を新聞社主催で公開する
 3 思ったこと

7 市川へお礼に伺う

8 子どもたちの卒業
 1 「花明り」の“しだれ桜”が届く
 2 贈る言葉
 3 「花明り」の“しだれ桜”が咲く

9 東山魁夷装画『子どもたちへの詫び状』
 1 病休か退職か
 2 『子どもたちへの詫び状』

10 筑豊絵本館
 1 東山魁夷常設コレクションとなる
 2 子どもたちの家
 3 東山画伯からの贈り物
 4 残されていた子どもたちの手紙と車椅子の写真

11 東山すみ夫人筑豊絵本館来訪

12 訃報 5月6日、8日、そして、11日

13 東山魁夷先生をしのぶ旅
 1 善光寺花岡平霊園
 2 長野県信濃美術館 「東山魁夷館」
 3 木曽路「心の旅路館」

 あとがき
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