こんなはずでは

国原譜 5/26

 奈良労働局によれば、今春卒業の県内大学生の3月末での就職内定率は過去最高らしい。5月が過ぎ去る中、新社会人はいわゆる「5月病」をうまくかわしただろうか。

 仕事内容や職場環境、人間関係など、思い描いた世界との差違は少なからずあったのでは。「こんなはずでは」のつぶやきが出たかもしれない。

 目標を見失い、心が折れそうなときは、先人の姿をたどる方法もある。「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」(文藝春秋)では、各界の先導者がかつて味わった挫折や悩みを講演、対談を通して語る。

 山中伸弥、羽生善治、是枝裕和、山極寿一各氏。学生に偉人も自分と変わらぬと気付かせ、挑戦する心を持ってもらおうと、永田和宏京都大名誉教授が企画した。

 失敗を重ね、焦り、自分の道に疑問を抱く姿は、現在の先駆者とのイメージからは遠い。一方で苦境から抜け出す思考、すべは、各人各様で示唆に富む。

 壁にぶつかった際の対処法のヒントはほかにもあるだろう。なにより新社会人には、売り手市場の中で選んだ道を大事にしつつ夢に挑み続けてほしいと願う。


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どんな失敗をしてもいい。学生時代にやった失敗は絶対に無駄にならない。
――第一章・山中伸弥

ある種の小さな挑戦とか、冒険、あるいは身近で未知なるものに出会うという機会を求めていくことは、非常に大切なのではないかと思います。
――第二章・羽生善治

僕はこの仕事を始めたころ、なぜ撮るんだろうという、すごく根本的なことで悩んだことがありました。
――第三章・是枝裕和

自分にしかできないことは何だろうと、思っていたほうがいい。あなたというのは、この世にひとりしかいないんだから。
――第四章・山極壽一

あんな偉い人でも、なんだ自分と同じじゃないかということを感じ取ってほしい
――永田和宏

担当編集者より
ノーベル賞受賞者の山中伸弥さんは、米国での研究生活から帰国後、自分の理想と現実のギャップに押しつぶされそうになったことがあったそうです。そこからいかに「世界の山中」にまで駆け上がったのか。あるいは天才将棋棋士の羽生善治さんは、コンピュータの発達、さらには若手が台頭してくる中、どうやってチャレンジ精神を維持し続けているのか。また、カンヌ国際映画祭など海外での評価も高い是枝裕和監督からは、映像を撮ることが自己表現ならば、なぜカメラを自分に向けないのかと悩んだ苦い青春時代が語られます。そして、京大総長の山極壽一さんは、前人未到の研究分野を切り拓く苦労を、ゴリラとチンパンジーの興味深い生態とともに披露してくれます。世界をリードする4人の講演の後に行われた対談で、さらに刺激的な話を引き出すのが、歌人にして細胞生物学者の永田和宏さん。あんなに偉大な人たちにも、挫折の時代があった。そこから彼らが踏み出した一歩に、今を生きるヒントを得て欲しい。そんな思いからできたこの一冊は、若い人だけでなく、ルーティーンに流されがちな大人の心にも響くはずです。
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