ジャックの愛した海

有明抄 5/26

 「そこにはブルーしかない。私の体は重い水の塊にのしかかられ、しだいにまわりのブルーに溶けていくようだった」(『イルカと、海へ還る日』講談社)。映画「グラン・ブルー」は、唐津の海を愛したことでも知られるフランス人ダイバー、ジャック・マイヨール(1927-2001年)をモデルに、素潜りを競う若者たちを描く。

舞台になったイタリア・シチリア島の街タオルミナの海は、どこまでも深い青をたたえている。そのタオルミナで、きょうから先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が始まる。

1年前の伊勢志摩サミットは安全保障分野でG7の存在感を印象づけたが、今回は一枚岩とはいきそうもない。4カ国の首脳が代わり、顔ぶれはすっかり様変わりした。もちろん、今年の主役は米国のトランプ大統領である。

「米国第一」を掲げ、各国に排外主義が広がるきっかけともなった。外交でも「取引」という言葉を好んで使うトランプ氏だ。損得勘定を自らの行動基準に据えているだけに、どんな要求を突きつけられるか、各国首脳も戦々恐々だろう。

唐津を訪れたジャックは高校生に語った。「欲望に満ちている人間と比べ、イルカはすべてを楽しんで生きている」と。イルカのような友好を望みたいが、トランプ氏を迎えるタオルミナの海には高波の予感が漂う。

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海が好きになる"グラン・ブルー"の美しいラストシーン

実在の人物を基に描かれたリュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー』。"人に生まれたイルカ"という表現がまさにぴったりで、3時間弱のほとんどが海でのシーン。見ているだけで癒される名作です。



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イルカと、海へ還る日
「講談社」(1993/02) ジャック・マイヨール(著)

故ジャック・マイヨールの海への想いやイルカへの限りない愛情を通して、人々の海への接し方について警鐘を鳴らす一冊。

フリー・ダイビングの元チャンピオンであり、映画「グラン・ブルー」の主人公のモデルとしても有名で、 1960年代から70年代にかけてライバルのエンゾ・マイオルカと閉塞潜水の世界記録更新を激しく争った ジャック・マイヨール。エンゾ・マイオルカが深海の水圧にも耐えられるだけの強靭な肉体をつくり上げて記録を目指した のとは対照的に、ヨガの実践により呼吸と気をコントロールし、水に順応し融合することにより深みを目指したマイヨール。

彼にとって海とは、人間も含めたあらゆる生命の源であり、人間の身体の奥深くに宿っている水棲機能を呼び覚ましてくれる もの。彼がなぜ海の深みへ潜ることを目指したのか、本書を通して理解できるような気がします。

イルカのようになりたかったジャック・マイヨールが我々に残したメッセージ-つまり人間の体に眠っている水棲機能を 呼び覚まし、水に適応した人類をつくることにより水中での活動範囲を広げるといった考えは、一見とっぴに感じるかも しれませんが、地球温暖化による環境破壊が叫ばれる今、彼の主張が我々に貴重な示唆を与えてくれているような気が します。

2001年12月に自らの命を絶った今となっては、本書は彼の貴重な遺作ともいえる一冊です。要所々々に水中科学の 学者でもある訳者による解説が挿入されており、フリーダイビングに馴染みのない人にも理解しやすいよう構成されています。
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