上を向く人

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水や空 5/23

何年か前の缶コーヒーのCMにあった。坂本九さんの「上を向いて歩こう」が流れ、地球の調査に来ている宇宙人がつぶやく。「この惑星の住人はなぜか、上を向くだけで元気になれる」。

緑の深い山を見上げる。青空を見上げる。なるほど、元気が出そうに思えるが、上を向くのが口で言うほど簡単でないときもある。ずっと上を目指し、ずっと頂点にいるこの人でさえ、そうかもしれない。

体操の内村航平選手(28)がNHK杯の個人総合で9連覇を果たし、国内外の大会で40連勝を成し遂げた。気の遠くなるような数字に届くまでに、五輪や世界選手権という最高峰をいくつも踏破して。

どんな世界でも上を向き続けるのは大変に違いないが、この希代のオールラウンダーは「執念」がそうさせるらしい。勢いづく白井健三選手(20)を僅差で追い、最後の鉄棒で逆転した。

勝利への「ストーリーはできていた」と語ったが、シナリオ通りに運ばないのを誰より知っているのも、内村選手その人だろう。体操競技を「改めてしんどいスポーツだと思った」と大きく息をついたという。

その姿に見入る私たちに上を向かせ、白井選手ら後輩たちに上を向かせ、自分も黙して上を向き続ける。おそらくは孤高の域に達したプロの離れ業は「難度」で表すとどれくらいだろう。

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缶コーヒー 飲むときなぜか 上を見る

 サントリーの缶コーヒー BOSS のテレビCM、トミー・リー・ジョーンズを使った『宇宙人ジョーンズ』シリーズを集めたDVDを観た。このCMがテレビで流れても、その瞬間だけは「おもしろいな」と思っても、次のCMが流れると今見たばかりの BOSS のCMはすっかり忘れてしまったりしていたが、こうしてズラリと並べて見ると、改めてすごくよくできているのがあるなぁと感じる。
 ご存じだろうがこのCM、トミー・リー・ジョーンズは宇宙人で、地球のことを調査にやってきているという設定。「この惑星の住民は・・・」というナレーションが流されるが、実は宇宙人が地球と地球人のことを調べて感想を述べているというよりは、外国人が日本に来て、日本と日本人の習慣や考え方、生き方などを不思議な国だと述べていると思っていいだろう。
 そんな中で、とくに目を引いたのは『ある老人』編という回。トミー・リー・ジョーンズの地球調査員は東京でタクシーの運転手をしている。後ろのシートには大滝秀治が客として乗っているのだが、その大滝秀治も宇宙人。長年日本に住み着いているらしい。街の風景を見ながらいろんなことがあったがと前置きして「今ほどみんなが下を向いてる時代はなかったかもしれんな」と言う。街には人々がみんな疲れて座り込んで地面を見つめているショットが挟まる。するとここで坂本九の『上を向いて歩こう』が流れ、大滝秀治はこう続ける。「なぜかこの惑星の住民は上を向くだけで元気になれる」。そこに上を見上げる人々のショット。見上げた先には東京スカイツリーが聳えている。それを見上げる人々は笑顔を浮かべている。
 缶コーヒーを飲むとき、人はちょっと上を向いて飲む形になるのとひっかけているのかもしれない。うまいCMだなと思った。
 とっさに思ったのは、このCMが流されたのは、3.11のあとなんじゃないだろうかということ。3.11があったとき、世の中は本当に暗くなった。多くの犠牲者が出て、原発事故が起き、これから先日本はどうなるんだろうと思った。テレビからは一時的にCMがほとんど放送されなくなった。そして誰からともなく『上を向いて歩こう』が方々で歌われるようになった。このCMもきっとそのころのものだろうと思ったのだ。
 ところがこれ、放送されていたのは2010年の12月からなんですね。3.11は翌年の2011年だから、まるで予言していたような感じになってしまっている。
 このころはまだ東京スカイツリーも建設途中。開業はさらに翌年の2012年5月になる。
 それでさらにこのCMがうまいところを突いているのは、人間ってなぜか高いものを見ると確かに元気になるということ。東京スカイツリーは言うに及ばず、東京タワーでも富士山でも、なぜかこういう天に向かって伸びているものを見ると興奮するようなんですね。なぜか登ってみたくなる。登山好きの人っていうのもこういう心理があるのかもしれない。まあ私なんかは富士山を見ても、歩いて登りたいとは思わないのだが・・・。アハハ。でも高いところにエレベーターを使って上ったりするのは好き。
 『ジャックと豆の木』のジャックもきっと雲の上まで伸びた豆の木を、ただただ登りたかったんだろうな。

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