群れのルール

いばらき春秋 5/17

動物の世界はみな弱肉強食-というのは人間の思い上がりらしい。上野動物園長や県自然博物館長を務めた中川志郎さん(筑西市出身、2012年没)は「群れのルール」と題したエッセイでチンパンジー村の風景をこんなふうにスケッチしている。

バナナをチンパンジーの群れに投げ入れてみる。何匹かが一斉に駆け寄るが、よく見ると、バナナにありつけるのはいつも最初に手にしたヤツ。

群れはボスを頂点とする序列社会だが、食べ物に関しては一番先に手を触れたヤツの物という権利が確立しているのだという。たとえ子どもであっても食べ物は腕力に勝るオスやボスに横取りされる心配はないらしい。

「チンパンジーの社会でこの権利が守られていることは驚きです」。エッセイの結びはこう締めくくられている。

韓国で親北・左派政権が誕生し、欧州では極右が台頭中だ。いずれも弱肉強食のグローバル競争の末、一握りのエリートや財閥に富が集中。安定した働き口を失った人々の怨(えん)嗟(さ)が背景にあるらしい。

弱肉強食では社会は維持されない。チンパンジーだけではないだろう。「人間の社会でこの権利が守られていないのは驚きです」。中川さんは本当はそんな思いを託されたのかもしれない。
子育てには、「飛び級」はない。

 ここでは、中川志郎元上野動物園園長のかつての記念講演の内容を紹介します。
中川氏は、長年動物飼育にかかわった体験を基にした子育て論を80分間にわたりスライドを使って説明しました。中川氏は、まず、「哺乳類では、赤ん坊を常にしっかり抱くと赤ん坊か安心する。また、赤ん坊に乳首を吸われることで母親の脳が刺激されて『母性愛ホルモン』が大量に分泌される」。その上で、「成長すると、母親はわが子をしっかり見守り、子供もそれを信頼することから、やかて身の回りのものに対する好奇心が芽生える」と言います。
 さらに、「子供がグルーブに参加することで、サル社会のルールを自然と身につけられるようになる」。また、子ザルは三歳ごろになると、子守をするようになるが、子守の経験が多いサルほど育児の成功率の高い傾向にある。
 一方、かつて動物園では、ライオンの出産は難しかったが、これは出産間近になるとオスをメスから離していたためで、ライオンのオスは出産の際に何もしないものの、存在するだけでメスは安心して無事に出産できる。中川氏は「ドウラ」(精神的サポーター)の存在が必要だと言います。同氏によると、良い親ザルになる条件は、
①赤ん坊のころに良い世話を受けた
②成長の過程で自分より幼いサルとの接触が多い
③精神的なサポートをしてくれるサルがいる---こと。
 しかし、人工飼育されたサルは、このような成長過程を経ないため、群れには入れず、夫婦になれず、たとえ人工授精して出産したとしても子育てができなくなる。
 また、野生のライオンの子供がけんかをしてもけがをしない理由について、中川氏は「赤ん坊のころ、母ライオンの乳首に爪を立てて何度もたたかれるうちに、爪を立てないで吸うことを覚える。これを攻撃力の抑制という。肉食動物はこのように体で覚えるが、人工飼育されたライオンはこの能力を身につけられない」。
 イヌも同様で、生後三ヶ月間に親や兄弟との生活でイヌ社会のルールを覚える。しかし、最近のペットブームで生まれて間もなく人間社会に入れられ、しつけをされないまま成長するため、「自分が一番偉い」と勘違いしてしまう。
 そのため、成長して飼い主がかわいがらなくなると「言うことを聞かない人間を懲らしめるため」噛んでしまう事故が増加しているという。
 中川氏は「ほ乳類が社会化するためには、幾つかの段階があり、それは決して『飛ぴ級』できない。社会化はサルが四千万年、人間も五百万年かけて培ってきたもので、遺伝子にしっかり組み込まれている。近代社会になっも段階を踏まなければならないのは同じ。段階にあった子育てをしなければならない。
 現代の子育てや教育に当てはまることが、動物の世界から学ぶ必要がある。
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