下戸マップ

天鐘 5/17

「粕汁で酔いまんね」「奈良漬け食べて反吐(へど)はいた」「酒屋の前を通っただけで酔いまんねや」。負けず嫌いの下戸自慢だが一番の下戸はこの話を聞いていた人が横手で「ゲェーッ」。



朝から尾(び)籠(ろう)な話で恐縮だが、桂米朝の落語『酒の粕』の枕である。酒が飲めない人を下戸、笊(ざる)のように飲む人を上戸という。戸は律令制の課税単位で飲める酒量が多い順に上戸、中戸、下戸と定められていた。

噺の枕に「ビールをコップ半分飲めば真っ赤」の件(くだり)もあったが笑えなかった。ある日、風邪引きと下戸2人の男3人で暖簾を潜り「取りあえずビール2本」を注文したが残る1本を持て余し、這々(ほうほう)の体で店を出た。

アルコールの分解酵素アセトアルデヒドを生まれつき持つか持たないか―で上戸と下戸が決まるという。日本人の60%は酒に強く、35%は余り強くない中間派、残る5%が全く飲めない下戸に分けられるとか。

中間と思っていたらアルコール消毒で腕が赤く腫れた。代替消毒液使用と特記され、医師から酒が合わない体質と忠告された。『全国下戸マップ』によると三重、愛知、石川、岐阜など近畿や中部に偏在している。

『酒豪マップ』では秋田、岩手、鹿児島と続き青森は12位。東北や九州に多い。結果、酒に弱い渡来人が中央の近畿に移り住んだとの説もある。遺伝子は替え難いが、酒杯を飲み干しふと綻(ほころ)ばせる酒豪達の笑顔が羨ましい。

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“酒豪”どこに多い? 「全国酒豪マップ」の謎



酒粕は、日本酒を絞った後の粕のことですが、粕汁を始め、奈良漬や鰆の粕漬けなど、面倒ではありますが、いろいろと用途があって、いいものです。
酒呑みの私としては、やっぱり、鰆の粕漬けがいいです。

ところで、「酒の粕」という与太郎噺ですが、いろいろな方がやっています。
とりわけ、与太郎の人の良さとマイペースさが出ていると感じました、八代目 林家正蔵 師匠、一般的には 林家彦六 師匠の音源から、筆記しました。

師匠のことをよくご存知の方は、与太郎の台詞は、ゆっくりと読むと、より雰囲気が感じられると思います。
では、どうぞ、ご堪能ください。


え~、我々の方には、米櫃(こめびつ)と申しまして、
それをやれば儲かるという噺がございます。
講談の方で、赤穂浪士を読みますと、どんなばやい(場合)にも、お客様にうける。
我々の方では、与太郎というのがあって、すこーし、頭がいかれておりまして、ぼーっとしていて人がいい。
これは、噺家の自叙伝みたいなものですから、やり損(そこ)ないのない噺で、...

「おーい、与太。」
「はぇ。」
「おめー、どうして、そう、しょっちゅう口を開いているんだい。」
「はぇ。こうやっているとねぇ、お天気のときには、喉まで日が当たるよ。」
「洗濯もんだねぇ。おめえ、顔が赤いが、どうかしやしねえか。」
「あたいはね、お酒屋の蔵掃除、手伝いに行ったんだよ。
 そうしたら、番頭さんがね、ごくろうさまって、酒の粕をくれたんだ。
 それを食べてるうちに、ぼ~~。」
「何がぼーだよ。いいわけえ(若い)ものがなぁ、
 酒の粕なんぞを食らうなよ。」
「食らうなよってたって、そうはいかないよ。食らっちゃった後だよ。」
「そりゃま、そうだろうが、誰も見たものはないんだからな、
 顔が赤いな、と言われたら、幸いだ、酒を飲んだ、と言ってみろよぉ。
 おめえがいい若いもんで、利口そうに見える。」
「えぁ。利口に見えるぅ?
 こりゃぁ、ありがたいな。早速、やってみるよ。」

「源さ~ん。源さ~ん。」
「呼んでやがら。何だ。何だい。」
「あたいの顔はねえ、変だろ。」
「うまいことを言いやがったねぇ。
 お前の顔なんぞ、いつ見たって変だよ。」
「それが今日は、ぽぽっと赤いでしょう。」
「あ~、言われてみればあけえや。
 どうしたい。悪い魚でも食ったか。」
「いや魚に当たったんじゃないよぉ。
 あたいはねぇ、お酒ぇ飲んだ。」
「お前がぁ?本当かよ。
 酒を飲んだぁ。景気が良くなるねぇ。どの位やったぃ。」
「どの位ってねえ、大きい欠片(かけら)が、この位。
 小さいのがこの位でねぇ、厚みがこの位。」
「それは、おまえ、酒の粕だ。」
「んわぁ。見たなぁ。」
「見なくたって、分かるよ。酒に欠片ってえのはないや。
 なぁ、どの位飲んだって訊かれたら、これ位の茶碗で
 ぐぅーっと二杯とか三杯とか言やぁ酒らしいよ。」
「はぁ~。なるほど。
 だんだん、うまくなっちゃった。
 どうも、ありがと。」

「おばさ~ん。」
「何だい。」
「あたい、お酒飲んだよ。」
「やだねぇ、この子は。
 今からお酒なんぞ飲んじゃあいけませんよ。」酒粕.jpg
「いけませんよっていうのは、言うこと違うぞ。
 どの位やったって訊いとくれよ。」
「つまらないことを頼んでるねぇ。
 どの位飲んだんだい?」
「この位の茶碗でねぇ、ぐぅーっと二杯とか三杯とか。」
「あーりゃ、五杯も飲んだのかい。
 冷(ひや)は毒だよ。お燗はしたかい?」
「いいや、焼いて食べた。」

これじゃぁ、何にもならない。


この噺にあるように、単純に酒粕を焼いて、上に味噌をのっけて食べても、いい酒の肴になります。
でも、酒の粕だけで、肝心の酒がないのは、ちょっと、...。

ちゃん、ちゃん。
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