ほぼほぼ

天地人 5/13

 「ほぼ」を二つ重ねた「ほぼほぼ」という言葉を近ごろたまに耳にする。「ほぼ」を強調する言い方のようだが、なんだかあいまいな言葉だ。日本語・フランス語教師の野口恵子さんは、強調なのか婉曲(えんきょく)表現なのか本当の意味が私にはよくわからない-と述べている(光文社新書『「ほぼほぼ」「いまいま」?!』)。

 2014年発行の三省堂国語辞典で「ほぼ」の項を見ると「俗に、重ねて使う」との解説がある。「俗に」という断りがあるが、辞典に取り上げられているのだから、一般的な言葉としてだいぶ使われているのだろう。

 最近では、大相撲の横綱稀勢の里がこの言葉を使っていた。3月の春場所で負傷しながら強行出場、劇的な逆転優勝を飾ったのは記憶に新しい。今月初め、その負傷の具合について「ほぼほぼ問題ない」と話していた。

 「ほぼほぼ」とは、どの程度の回復具合なのだろう、と気になっていたが、あす始まる夏場所出場を決断した。稀勢の里効果で大相撲人気は沸騰中だ。やはり「主役」の活躍なしに盛り上がらない。「ほぼほぼ」は「ほぼ万全の状態」と思いたいところだ。

 その稀勢の里との取組を望んでいるのが、本県出身力士では4年ぶりの新入幕となる中泊出身の阿武咲(おうのしょう)。「魂の入った相撲をファンに見せたい」と熱く語っている。土俵盛り上げへ「ほぼ主役」クラスの奮闘を期待したい。


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「ほぼほぼ」「いまいま」?!クイズ おかしな日本語
野口恵子/著

この本では、もっぱら現代日本語の口語の「正誤」を問題にしている。取り上げた間違いはすべて実例だ。(中略)
日本語に関しては、目上の人への丁重な文体あり、親しい人への話し言葉ありで、実に多様な日本語に接することができる。同時に「日本誤」にもたくさん出会う。そのようにして集まった日本語の誤用を基に、この本を書くことになった。言葉の意味と使い方、表記、文法、敬語に関するクイズを出題するが、正解は一つでないことが多い。現代標準日本語の口語をできるだけ正確に理解し、よりよく使用することを目指して、一緒に考えていきたい。(「まえがき」より)

目次

第一章 語彙・意味 編
第二章 表記・文法 編
第三章 敬   語  編

著者紹介

野口恵子(のぐちけいこ)
1952年愛知県生まれ、東京育ち。日本語・フランス語教師。青山学院大学文学部フランス文学科卒業後、パリ第八大学に留学。放送大学「人間の探究」専攻卒、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程単位取得退学。フランス語通訳ガイドを経て、90年より大学非常勤講師。文教大学、東京富士大学、国立看護大学校で教鞭をとる。著書に『かなり気がかりな日本語』(集英社新書)、『バカ丁寧化する日本語』『失礼な敬語』(以上、光文社新書)、『日本語力の基本』(日本実業出版社)がある。

…………………………

「お帰りになられます」、その日本語、正しいですか?
『「ほぼほぼ」「いまいま」?! クイズ おかしな日本語』


 日本語は難しい。正しいと信じ込んで、知らないうちに誤用している言葉が実はたくさんある。自分が思っていたものと意味が全く違っていた単語も多い。新しい概念を含んだ、聞き慣れない日本語も多く生まれている。光文社新書の『「ほぼほぼ」「いまいま」?! クイズ おかしな日本語』を読むと、そうしたことに気づかされ、クイズ形式で自分の日本語力を判定することができる。著者の野口恵子さんに執筆の動機などを聞いた。

――本書を書かれた動機は。

『「ほぼほぼ」「いまいま」?! クイズ おかしな日本語』
(野口恵子、光文社)

野口:文化庁の調査に基づいて、日本語にどんな誤用が起きているのかを調べました。例えば、「おざなり」と「なおざり」という言葉がありますが、間違って使っているのにそれを正しいと思っている人もいます。私は外国人学生のほか、社会に出る前の日本人学生にも日本語を教えていますので、やはり正しい言葉を身につけたほうがいい。そういう思いから本書でいろいろと考えてみました。

――恥ずかしながら記者である自分も気をつけないと誤用することがよくあります。

野口:言葉は美醜ではなく、正誤、つまり正しいか正しくないかだと思います。例えば「お前バカだなあ」という言葉は一見、乱暴なようですが、誰がどこで言っているか、その状況によってずいぶん変わります。場合によっては非難でなく、愛情の表現だったりもします。ですから、言葉は美醜よりも正誤だと私は考えています。いろんな意見があるでしょうが、私は外国人にも教えていますので、現代口語の正しい言葉を教えたいと思っています。彼らも正しい言葉を知りたいと思っていますから。

――正しい日本語とは何を基準にされていますか。

野口:標準語をベースにして、口語の場合は文法とか、単語の意味、使い方です。辞書も一冊や二冊だとなかなかわからないので、多数を参照するなどして判断します。

――間違いのパターンというのはありますか。

野口:さきほどの「なおざり」と「おざなり」は普段若い人が使っていないのでよく意味がわかっていません。ある程度知識のある人でも、「すべからく」という言葉を「全て」のように使ってしまうこともあります。また政治家とか、地位の高い人の話を聞いていてもずいぶん間違っているなあと思うことがあります。間違えるぐらいなら、こんな堅苦しい言い方をしなくてもいいのにと思う時もあります。あとは街のいろんなアナウンスでも敬語の間違いは多いです。

――言葉に関して、最近はこれが正しい使い方ですよと言ってくれる人が実はあまりいないのではないでしょうか。

野口:特に若い人は言葉をよく知らないということもあって自信がないので、周囲の人が使っているのをまねる。そうした人が言葉を間違っていると、まねた人も間違う。やはり教える人がちゃんといないのではないかと思います。ですから、日本語学校に通っている外国人の方がきちんとした日本語をしゃべります。日本語学校ではあまり複雑でなく、シンプルな言葉しか教えません。外国人は余計なことを知らないということもあるかもしれません。

――本書で力を入れたのはどの分野ですか。

野口:文法と表記と敬語については、比較的苦労せずに書けましたが、それ以外は自分も含めてよく間違えやすいものをとりあげました。正しい使い方はどうなのか、どうしてこういう間違いをおかしてしまうのかを書く時にいろいろ調べました。例えば、「スケジュール感」「スピード感を持つ」などの言葉がありますが、よく考えると違和感があります。自分で気になる言葉は普段から細かく記録していますが、変だなと思うことをどう説明するかについては苦労しました。

――敬語も間違えやすい分野です。

野口:最近気になるのは過剰な敬語ですね。最近多くなったような気がします。敬語は丁寧にしておけばいいという風潮があるようですが、そうではありません。

 例えば「お帰りになられます」は二重敬語です。正しくは「お帰りになります」か「帰られます」ですね。「お亡くなりになられました」というのも同じパターンで、正しくは「お亡くなりになりました」、あるいは「亡くなられました」です。

 敬語は長くないと丁寧でない、丁寧にしないとよくないといった強迫観念みたいなものがあるのでしょう。ごく普通の丁寧な言葉とか、シンプルな敬語でいいのではないかと思いますが、自分と敬意を表する相手との距離感がつかめないから、妙に遠い言い方をしてしまうのかもしれません。

 選挙で当選した人が「息子も応援してくださいました」などと言ってしまう。どうしてそんな言葉を使うのかと思いますが、記者会見などの場で丁寧に話さないといけないという思いからつい言ってしまう。「息子も応援してくれました」と言えばいいところを、何か勘違いしているのですね。

――最近気になる言葉の使い方はどんなことですか。

野口:読者からもお手紙をいただいたのですが、ビジネス関係の方々がよく使う、開口一番の「おつかれさまです」は気になります。別れる時はまだいいですが、会ったときに言う「おつかれさまです」や、メールの冒頭から「おつかれさまです」となっているのはやはり気になります。日本語教師の中にもそうした使い方をする人がいます。夕方一日の仕事が終わってからならいいですが、ビジネス関係の人の中には、「普通に使っているからいまさら指摘されても」といった雰囲気はあります。

 また、「おはようございます」に関しては、一日のうちで初めて会った時に使うなら、昼でも夕方に使ってもいいと主張する学生もいます。彼らはアルバイト先で夕方でも「おはようございます」と言うそうです。

 確かに日本語の場合、「こんにちは」は使いにくい言葉なのですね。「おはようございます」は敬語ですし、「おはよう」は親しい人に言えますが、「こんにちは」にはそうした言い方がない。すごく親しい人には使えないし、目上の人にも使えない。街中で会った家族に向かっても言えない。親しい人にも遠い人にも使えない言葉なんです。ですから「おはようございます」や「おつかれさまです」を使いたくなる気持ちもわかります。私は余り使いたくありませんが。何か他の言い方がないものかと考えているところです。


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