不思議な力

水や空 5/13

 声のトーンだけで心を読んでしまう、そんな直感力への驚きと敬意だろうか。〈神ってる/ただいまだけで/読む母さん〉。ギフト専門サイトが募った「母の日川柳」にある。「ただいま」の声はちょっとだけ弾んでいたのか、沈んでいたのか。

それとなく察してしまう。おいしい物をさっと作ってしまう。酒造会社の昔の広告コピーに〈母は、魔法つかいだった。〉とある。お化粧で顔が変わるとか、例えばそんな"魔法"も指すのかしら。

神ってる、魔法使い。母親とは、何かと不思議な力の持ち主として語られがちだが、その胸の内はどうだろう。耳の痛い五行歌を思い出す。〈息子が洗濯をして/娘がパスタを茹(ゆ)でて/夫が掃除機をかけている/夢を/見た〉秋桜。

あすは、思い立ったが「母の日」。〈突然の、親孝行をお許しください〉。こちらは百貨店の広告コピー。日頃の魔力に感謝を込めて、多少のお返しもいいかもしれない。

先日の県内経済面に、母の日向けに食事券が載ったカタログギフトが人気とあった。贈るだけでなく、親子や夫婦で思い出を共にする趣向らしい。

〈母という字は/女の中に二つの点/乳房を加えた形なりと/ものの本に書いてある〉。詩人吉野弘さんの一編「母・舟・雨」から。不思議な力を宿す「母」という字を見詰めてみる。

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吉野弘さんの「漢字喜遊曲」です。

一つひとつの漢字から連想して世界を広げていった作品で、漢字の形の微妙な違いをその漢字の意味と結びつけながら、詩想を膨らませて行っています。

「母」と「舟」、「幸」と「辛」、「舞」と「無」、そして「器」と「哭」。

喜遊曲は、ディヴェルティメントのことであり、 明るく軽妙で楽しい曲のことを指します。


この作品を読むだけでなく、実際に自分で書いてみたいと思われた女性の気持ち、わかるような気がします。

「母は 舟の一族なのだろうか。
こころもち傾いているのは どんな荷物を
積みすぎているせいか。

幸いの中の人知れぬ辛さ そして時に
辛さを忘れてもいる幸い。
何が満たされても幸いになり 何が足らなくて辛いのか。

舞という字は 無に似ている。
舞の織りなすくさぐさの仮象
刻々 無のなかに流れ去り
しかし 幻を置いてゆく。

ーかさねて
舞という字は 無に似ている。
舞の姿の多様な変幻
その内側に保たれる軽やかな無心
舞と同じ動きの。

器の中の 哭。
割れる器の嘆声か
人という名の器のもろさを
哭く声か。」

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