ホトトギス

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編集日記 5/12
  
 木々の緑が日ごとに深さを増すこの時期。ふと思い出す小学唱歌「夏は来ぬ」は「卯(う)の花の匂う垣根に」で始まり「時鳥(ほととぎす)早も来鳴きて」と続く。

 この歌の誕生は、1896(明治29)年ごろ。教育者の小山作之助による明るいメロディーは、今も新鮮で初夏の風の爽やかさを思わせる。一方、歌人の佐佐木信綱の文語調の歌詞には小学生の頃、戸惑った記憶がよみがえる。

 まず「夏は来ぬ」と聞き「なぜ『夏は絹』なんだろう」と素朴に思った。ホトトギスに至ってはまったく未知の生物。見たこともなければ声を聞いたこともなかった。

 ホトトギスは5月ごろから鳴き声が聞こえ始める渡り鳥。昔から夏の題材として和歌などに詠まれ、夜鳴く声を聞こうと中世の貴人たちは徹夜をした。「夏は来ぬ」の詞には伝統文化の粋が詰まっているのだ。だが戦後、都市部でその声を聞く機会はなくなった。

 環境の変化が文化の継承を難しくしているのは間違いない。だが文化や伝統というのは意外にしぶとい。楢葉町には郭公山(ほととぎすやま)という低山がある。名の由来は不明だが、かつて人々がその声を聞き楽しんだ記憶が地名に残ったのかもしれない。現在、愛鳥週間。山道に注意し出かけようかと思う。

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『夏は来ぬ』

歌:童謡・唱歌
作詞:佐々木 信綱
作曲:小山 作之助

卯の花の におう垣根に
ほととぎす 早も来啼きて
忍音もらす 夏は来ぬ

さみだれのそそぐ山田に
早乙女が 裳裾ぬらして
玉苗植うる 夏は来ぬ

橘の かおる軒場の
窓近く 蛍飛びかい
おこたり諌むる 夏は来ぬ

棟ちる 川べの宿の
門遠く 水鶏声して
夕月すずしき 夏は来ぬ

五月やみ 螢飛びかい
水鶏なき 卯の花咲きて
早苗植えわたす 夏は来ぬ

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歌詞の意味は?

『夏は来ぬ』の歌詞を見てみると、古典文学者により作詞された19世紀の古い歌曲ということもあってか、普段聞きなれない若干堅めの表現が多用されている。曲への理解を助けるため、分かりにくい単語・歌詞について簡単に補足してみたい。

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1番の歌詞:ホトトギスと卯の花

1番の歌詞で冒頭に登場する「卯の花(うのはな)」。これは初夏に白い花を咲かせるウツギの花を指す。旧暦の4月(卯月)頃に咲くことから「卯月の花」=「卯の花」と呼ばれた。

「忍音(しのびね)」とは、その年に初めて聞かれるホトトギスの鳴き声を指し、『古今和歌集』や『枕草子』などの古典文学作品にも登場する古語の一つ。

2番の歌詞:山村の田植え

『夏は来ぬ』2番の歌詞では、山村での田植えの様子が描写されている。さみだれ(五月雨)とは、旧暦の5月頃に降る雨を意味する。五月(さつき/皐月)は田植えの月として「早苗月(さなえつき)」とも呼ばれた。

「早乙女(さおとめ)」とは田植えをする女性、裳裾(もすそ)とは衣服のすそ、「玉苗(たまなえ)」は、「早苗(さなえ)」と同様、苗代(なわしろ、なえしろ)から田へ移し植えられる苗を意味している。

3番の歌詞:「蛍雪の功」

3番の歌詞では、まずミカン科の柑橘類の一種であるタチバナ(橘)が描かれる。『古今和歌集』でも取り上げられ、「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」(よみ人しらず)などと詠まれた。

歌詞の後半で「蛍飛びかい  おこたり諌(いさ)むる」とあるが、これは中国の故事「蛍雪の功(けいせつのこう)」からヒントを得た表現であろう。故事によれば、灯りの油も買えない貧しい青年が、本を読むために、蛍を数十匹捕まえて袋に入れ、その灯りで勉学に励んだという(冬は雪明り)。

『夏は来ぬ』の歌詞においては、「蛍雪の功」の故事を暗示しながら、夏の夜も怠らず勉学に励めと、飛び交う蛍にまるで諌められているかのような表現となっている。



4番の歌詞:農村の夕暮れ

冒頭の「楝(おうち)」とは、夏に花をつける落葉樹のセンダン(栴檀)を意味する。水鶏(クイナ)は、古典文学にたびたび登場するヒクイナ(下写真)を指していると思われる。

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ヒクイナの鳴き声は戸を叩くようにも聞こえることから、古典文学では「くいな」、「たたく」、「門」、「扉」などの単語と関連付けられて用いられてきた。一例を挙げると、紫式部 『源氏物語・明石』では「くひなのうちたたきたるは、誰が門さしてとあはれにおぼゆ。」、松尾芭蕉「此宿は水鶏も知らぬ扉かな」などと詠まれている。


5番の歌詞:総まとめ

『夏は来ぬ』最後の節では、1番から4番までの歌詞で登場した既出の単語をまとめて再登場させ、歌全体を締めくくるような構成がとられている。初夏に関連する季語をズラっと並べて、様々な風物詩を通して夏の訪れを豊かに表現している。

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