お客さまは神様?

明窓 : 5/12

「お客さまは神様です」は昭和を代表する歌手、三波春夫さんの台詞(せりふ)である。日本企業の旺盛なサービス精神を象徴する言葉として流行し、今も社会に根付く。

教育現場で子どもや保護者の「お客さま化」が進んでいないか。先日、登校時間が普段より10分ほど遅れた小学生のわが子を心配する電話を受けた。保護者にとってはありがたいが、学校側の負担を思うと心苦しい。

教員の過酷な勤務実態があらためて浮き彫りになった。小中学校教諭の平日の平均勤務時間は11時間を超え、中学校では6割近くが過労死ラインに達した。脱ゆとりに伴う授業時間の増加、部活動や保護者への対応…。トイレに行く暇がない教員がいるという。現場から「電通だけじゃない」との悲鳴が聞こえてきそうだ。

「教育」が「労働」を隠していると指摘するのは、ブラックバイトの名付け親として知られる大内裕和・中京大教授。ひどい環境なのは明らかなのに「子どものためならば仕方ない」と際限なく仕事を受け入れる土壌があるという。

実は、客側が「お客さまは神様だから、要望を聞いて当然」と言うのは意図せぬ使われ方。三波さんの真意は「聴衆を神様と見立て、澄み切った心にならないと最高の芸はできない」で、舞台人の心構えを説いた。

三波さんの言葉を借りれば、教員が澄んだ心で子どもたちと向き合ってこそ、初めて教育は成り立つ。疲弊した現場でできるはずがない。膨れ上がった業務を思い切ってやめることが「お客さま」のためになる。

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