共生

中日春秋 4/26

共生とは何か。動物生理学の研究者・本川達雄(もとかわたつお)さんは、近著『ウニはすごい バッタもすごい』(中公新書)で、こう定義している。

<異なる二種の生物が、同じ場所で互いに緊密な結びつきを保って生活していること>。共生することで、どちらの種も利益を得ることを「相利共生」と呼び、一方のみが利益を得れば「片利共生」と呼ぶそうだ。

その相利共生のすばらしい例が、サンゴと植物プランクトンの一種・褐虫藻(かっちゅうそう)の支え合いだという。サンゴは褐虫藻が安全に暮らせる丈夫な家を提供している。サンゴが動物なのに樹木のような形をしているのは、褐虫藻が光合成をしやすくするためだ。

褐虫藻が光合成でつくりだした酸素や栄養を使ってサンゴは生き、サンゴが吐き出す二酸化炭素などを使い褐虫藻は生きている。この絶妙な共生こそがサンゴ礁の豊かな生物多様性の礎(いしずえ)となっているのだ。

そういう豊かな海の中でも、日本生態学会や日本魚類学会など十九の学会が「我が国で最も貴重な海域の一つ」「世界に誇るべきもの」として保全を求めたのが、沖縄の大浦湾だ。だが、そこに基地を造るための埋め立て工事がきのう、始まった。

安倍首相はかつて国会で、日本全体を「多様性を尊重する共生社会に変えていく」と語っていたが、首相が言う共生とは、どんな意味なのか。潰(つぶ)されゆく「共生の海」は何を物語るか。

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内容説明
ハチは、硬軟自在の「クチクラ」という素材をバネにして、一秒間に数百回も羽ばたくことができる。アサリは天敵から攻撃を受けると、通常の筋肉より25倍も強い力を何時間でも出し続けられる「キャッチ筋」を使って殻を閉ざす―。いきものの体のつくりは、かたちも大きさも千差万別。バッタの跳躍、クラゲの毒針、ウシの反芻など、進化の過程で姿を変え、武器を身につけたいきものたちの、巧みな生存戦略に迫る。

目次
第1章 サンゴ礁と共生の世界―刺胞動物門
第2章 昆虫大成功の秘密―節足動物門
第3章 貝はなぜラセンなのか―軟体動物門
第4章 ヒトデはなぜ星形か―棘皮動物門1
第5章 ナマコ天国―棘皮動物門2
第6章 ホヤと群体生活―脊索動物門
第7章 四肢動物と陸上の生活―脊椎動物亜門

著者紹介
本川達雄[モトカワタツオ]
1948年(昭和23年)、仙台に生まれる。1971年、東京大学理学部生物学科(動物学)卒業。東京大学助手、琉球大学助教授(86年から88年までデューク大学客員助教授)、東京工業大学大学院生命理工学研究科教授を歴任、東京工業大学名誉教授。理学博士。専攻は動物生理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


多種多様の生き物賛歌

 87万部のベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)から25年。

 動物生理学者の著者が、ウニやヒトデといった自らの研究分野を、初めて一般向けの新書にした。「やっと書かせてもらえた」とうれしそうだ。

 紹介される色々な生き物の有り様にはうならされる。例えば砂の上に暮らし、砂粒の間の有機物を栄養にしているナマコ。ほとんど動かずとも生きられるから、摂取エネルギー量は少なくてすみ、筋肉はごくわずか。体の大部分は皮なので食べられる危険も少ない。昆虫も「クチクラ」素材の外骨格を持ったからこそ、体を乾燥から守り、羽を生やして飛べるようになった。貝もホヤも、確かにみんなすごい。「人間とは相当違うが、それぞれ地球上で大成功した。同じ地平で褒めてあげないと」

 だから各章の最後に自作の「褒め歌」を付けた。

 ♪見ない 耳ない 鼻もない 筋肉あっても 超少ない~~(ナマコ天国)

 生物学習に必要な知識をちりばめた歌を、これまでに約200曲制作し、大学の講義で披露してきた。「考えるための材料は、やはり丸暗記しないと。ならば覚えやすくなる方法を提供するのが教育者ではないか」と語り、現状の理科教育をチクリと刺した。

 1948年生まれ。日本が豊かになり、周囲が「役に立つ」学問を志向する中、「直接は役立たない」分野を専攻したくなった。そこでたたいたのが生物学の門。この分野では珍しく、生き物好きではなかった。その分、純粋な驚きが詰まった「生き物賛歌」が書けたのかもしれない。

 「人間は頭から自分たちを絶対と考え、『脳のない生物なんておかしい』などと、一方的にほかの生物を断罪する。それで『多様性が重要』なんて言えるのかなあ」


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