快進撃

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卓上四季 4/25

スポーツ大会で予想外の勝利を収めたとき、自分が中学生ならばどんな感想を述べるだろうか。「思いがけない」「信じられない」。あるいは本来の意味とは違うが、はやりの「やばい」が口をつくかもしれない。「望外」なんて言葉は、おそらく頭に浮かばない。

将棋の最年少プロ棋士藤井聡太四段(14)の言葉遣いは中学生離れしている。非公式戦ながら羽生善治3冠を破り、「自分の実力は出し切れたと思いますし、望外の結果だったと思っています」と語っていた。

昨秋のデビュー以来、公式戦13連勝中の実力は本物だった。羽生3冠も「どれだけ伸びるか。すごい人が現れた」と漏らしていた。対局中も浮かれたところはなく、落ち着いたしぐさは先輩たちへの気配りさえ感じさせる。

祖母の指導で5歳の時に将棋を始め、ひらがなより先に覚えた。スポーツ紙によれば、小学校4年時の関心事に「原発」「尖閣諸島問題」を挙げていた。ちなみに望外という言葉は夏目漱石の小説によく出てくる。愛読しているのか。今は気象庁のホームページに興味があるという。

今後、天才の対戦相手は人間に限らないだろう。トップ棋士も苦戦する人工知能(AI)ソフトへの挑戦である。

将棋の神様は期待を込めて、こう言うかも。<あなたの命令どおり動ける駒になれれば、それだけで「望外」の幸せなんだ>(川原礫(れき)著「アクセル・ワールド」

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あなたの命令どおり動ける駒こまになれれば、それだけで望外の幸せなんだ。 …
川原礫『アクセル・ワールド 01 -黒雪姫の帰還-』より

・望外の
→ 望外の喜び (11%) 望外の幸せ (10%) 望外のこと (8%) 望外の幸運 (7%) 望外の幸福である (3%) 望外の仕合せ (2%) 望外の幸い (2%)


アルプスから帰って、ジャン・バルネ氏にそれとなくこの計画を話してはみたが、アルプスから帰ったばかりなので、こっちは少々気がひけていたのだ。 それをこんなに早く行かせてくれるなんて、まったく望外の喜びだった。 九月二十三日、マルセイユからケニヤのモンバサ港行きの船、ラ・ブルドネ号に乗りこんだ。
植村直己『青春を山に賭けて』より引用

わずかに、島津、鍋島が現状を維持し得、上杉、毛利が削封だけでゆるされたにすぎなかった。 これは、望外の僥倖であり、渠かれらは、徳川氏に服事ふくじせざるを得なかった。
柴田錬三郎『(柴錬立川文庫2) 真田幸村』より引用

僕は下僕でいい。 あなたの命令どおり動ける駒こまになれれば、それだけで望外の幸せなんだ。 ここでその手を取ったら、僕はしてはいけない期待をしてしまう。
川原礫『アクセル・ワールド 01 -黒雪姫の帰還-』より引用

一人の著者のなかに異なる二人の語り手がいるともいえる。 それは著者が生きた時代のひとつの証言になっているとすれば望外の幸せである。 筑摩書房の山野浩一さんが学生時代に本書初版を手にとり、共感をもって読んでくださったことを二人の会話のなかで知り、私は大いに驚くと同時に、書物の役割の重要さを改めて感じたものである。
今村仁司『増補 現代思想のキイ・ワード』より引用

わたくし達は白鬚神社のほとりに車を棄て歩んで園の門に抵るまでの途すがら、胸中窃に廃園は唯その有るがままの廃園として之をながめたい。 そして聊いささかたりとも荒涼寂寞の思を味い得たならば望外の幸であろうとなした。 予め期するところは既に斯くの如くであった。
永井荷風『百花園』より引用

それも最近は食が進まない様子なので心配だった。 ジャックは望外の五十ポンドを何に使うか思案しながら帰途についた。 散々迷ったあげく、スーパーで緑の小さな林檎と干し無花果を買った。
縞田理理『霧の日にはラノンが視える3』より引用

そうかといってエジソンやワシントンなどと混ると、感じとして一寸変な気がするんだそうだ。 だがここに入はいらないとすると文学者として偉いことにされたことになるから彼にとっては望外の尊敬を受けたことになるんだそうだ。 魔利が変な人間だということは前に書いた他の二篇の中に既に歴然としているが、我輩から見た、もう一皮剥いた真実の彼女を描いてお見せしようというのが、この文章の主眼である。
森茉莉『贅沢貧乏』より引用
直属となれたことだけで、ダキラにとっては望外の幸福だったのだ。 九剣は、決して下位騎士内の精鋭部隊などではない。
九里史生『SAO Web 0406 第八章01』より引用

同時にまた本書と『誰がムッソリーニを処刑したか』の双方とも、在ワシントンのアメリカ議会図書館の蔵書に加えられた。 国際的にもお役に立っているとすれば望外の喜びである。 ところで五十年前のちょうどいまごろ、カステッラーノ将軍はローマで統帥逮捕の秘策を練っている最中だった。
木村裕主『ムッソリーニを逮捕せよ』より引用

ロレンスたちが包まっていたもの以外に、予備のものが一枚ある。 それを渡わたすと、少年は望外の喜びに出会ったように目を見開き、うなずいた。
支倉凍砂『狼と香辛料Ⅵ』より引用



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水や空 4/25


 〈若さは未完成で不確実で〉...日曜日のこの欄に書いたばかりの言葉は取り消した方がいいのか、この人が特別なのか。史上最年少、14歳のプロ棋士の快進撃が止まらない。将棋の藤井聡太四段。

23日に放送されたインターネットテレビ局の企画「炎の七番勝負」第7局で、第一人者の羽生善治三冠と対戦。「角換わり」と呼ばれる戦型の定跡形から思い切りよく踏み込むと、細い攻めをうまくつないでリードを奪い、羽生三冠の反撃を冷静に受け止めて勝ちきった。

公式戦では昨年12月のデビュー戦から無傷の13連勝中。高勝率の若手とタイトル戦の常連を並べた7人に挑むこの企画は公式戦ではないが、こちらも6勝1敗。詰め襟の学生服姿で将棋界の話題を独り占めにしている。

「すごい人が現れた」と局後の羽生さん。5局目に登場して敗れた深浦康市九段も「10代でタイトルを狙えるレベル」とスポーツ紙にコメントを寄せていた。

ただ、いつも思うことだが、立派なのは彼らの終局後の態度だ。親子ほど年の離れた相手に居住まいを正して「負けました」と頭を下げ、指し手を振り返る感想戦では率直に読み筋を披歴しあって最善の一手を追求する。

若い才能の輝きはもちろんだが、敗者のこうした美しさにも目を向けたい。将棋の魅力はここにもある。
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