命を吹き込む

水や空 4/22

 虫をいろいろ採集しては、脱皮したり、ふ化したりするのを観察するのが大好きで、とりわけ毛虫がお気に入り。平安後期以降に編まれた「堤中納言(ちゅうなごん)物語」に風変わりなお姫さまの話がある。「虫めずる姫君」という。

眉毛を抜いて墨で眉をかく、お歯黒にする。そんな身だしなみにまるで心動かない。感性のまま生きる姫君の運命が、子ども心に気になって仕方なかった-と宮崎駿監督はアニメ映画「風の谷のナウシカ」の原作漫画に一文を添えた。三十数年前のこと。

監督の中で、この姫君と重なるらしい。戦争で文明が崩壊してから千年の後、少女ナウシカは菌類の森「腐海(ふかい)」にすむ巨大な虫とどこか心を通わせる。

少女の名は、古代ギリシャの叙事詩オデュッセイアに登場する王女にちなむという。監督の手で、遠い時代の王女や姫君に新しい命が吹き込まれた。

作り手はこうやって作品に命を吹き込み、躍動感を与えていった、と開催中の「ジブリの大博覧会」は数々の作品の創作プロセスや裏側を見せる。

絵画にふうっと息を吹き掛けると、描かれた人や動物がたちまち動きだす-なんてことはそれこそ絵空事で、創作現場は地道な作業の積み重ねなんだな。そう実感しながら、それとは逆の不思議な感覚も抱く。まるで会場のいろんな物が今にも動きだすような。
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