ジキル博士とハイド氏

水鉄砲 4/20

 千葉県我孫子市で、小学3年生のベトナム人女子が殺害された。かわいい顔写真付きで報じられたとき、私は何となく「犯人は獣性を持つ中年男」という予感がした。容疑者の調べが進むにつれ、それが的中したようで、やりきれない。

 40代半ばの容疑者は、小学生の登下校見守りに熱心な保護者会会長だった。その一方で児童ポルノの収集に凝り、今度の事件も綿密に計画していたらしい。まさにイギリスの作家、ロバート・スティーブンソンの代表作『ジキル博士とハイド氏』の日本版だ。その矛盾する人格を再確認し、人間の心の闇にたじろぐ。

 二重人格を扱ったこの古典のモデルは、18世紀半ばにエジンバラ市議会議員だったウィリアム・ブロディ。昼間は模範的実業家だったが、夜間は盗賊として18年間に数十件の盗みを働き、最後には税務署の襲撃計画が露見して処刑された。

 私の近所にベトナム料理店がある。難民だった両親は子ども2人に日本風の名前を付け、家庭教師を雇って、日本人として育てるのに必死だ。彼らがほれ込んだこの国で、同胞に起こった今度の事件は大きなショックだったという。

 被害者の父親も犯人の実像を知って、日本人を信じていたのにと絶句した。この少女は、将来日本人にベトナムを案内するツアーガイドになることが夢だったという。

 心から愛し運命を託したこの国に、こんな形で裏切られた家族の無念は、察するに余りある。
関連記事