学芸員の一掃

中日春秋 4/18

米デトロイト美術館といえばゴッホの「自画像」やマチスの「窓」など約六万点を所蔵する米国でも屈指の美術館である。最近、日本で行われたデトロイト美術館展をご覧になった方もいるだろう。

大きな危機を乗り越えたことでも知られる。二〇一三年、デトロイト市の財政破綻を受けて、所蔵品の売却が検討された。「ゴッホよりも年金」というのである。

生活か宝か。両方を守る方法を見つけた。大規模な募金によって、年金受給者の救済と美術館の運営に充てる。これに市民や大企業が動き、一年ほどで十億ドル近く集め、所蔵品を守り抜いたという。

あの大臣ならばどうしたであろう。博物館などの学芸員は観光立国にとってのがんであり、一掃しなければならぬと語った山本地方創生相である。批判され、撤回したが、学芸員が芸術品の保管や保護を優先するあまり、観光サービスに熱心でないと、言いたかったらしい。

確かに観光も大切な産業である。とはいえ、観光客の誘致に目がくらみ、文化財をぞんざいに扱えば、元も子もなくなることにはお気づきではない。一度失えば、二度と戻らぬ資源である。模索すべきは保護と観光のほどよき調和であって、学芸員の一掃ではない。

それにしても失言の絶えぬ政権である。「失言、撤回、辞任はせず」博物館でもこしらえる気なのかもしれないが、観光客は集まらぬ。

…………………………

ゴッホの"指の跡"がのこる名画

20170418051236bc2.jpeg


フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》1887年 

まずは、本展のメイン作品ともいえるフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の《自画像》を見ていこう。ゴッホの「自画像」と言えば、耳に包帯が巻かれている痛々しいものを思い浮かべる方も多いだろう。しかし本作品には、それがみられない。むしろ、柔らかい表情のゴッホが淡い色彩の背景・衣服とともに描かれており、穏やかな印象を受ける作品となっている。実はゴッホは、生涯にわたって約40点の自画像を描いており、今回ご紹介している《自画像》は、1887年に描かれたものだ。よく知られた耳に包帯を巻いた自画像は、1889年以降に描かれたものである。

では、1887年ごろは、彼にとってどのようなタイミングであったのかを紐解いていこう。前年の1886年、ゴッホはパリに移住し、弟・テオとの共同生活をスタートし始める。パリはその当時時代の最先端を行っていた印象派の画家たちが盛んに活動していた拠点だった。ゴッホはパリへの移住後、ミーユ・ピサロ、ジョルジュ・スーラ、ポール・シニャック、エドガー・ドガらとの交流を深め、影響を受けたとされている。本作は、これら印象派画家たちと親睦を深めた時期に描かれた作品なのである。それをふまえて再度作品を眺めてみると、全体が淡い色彩で描かれており、また印象派の特徴的な技法である「筆触分割」(絵の具を混ぜ合わせずに、あえて筆触を残したまま描く手法)が用いられ、光を意識した作品となっていることがわかる。ゴッホといえば、うねるような筆致と怪しげな色彩を用いて幻想的な風景を描いたと思われがちだが、そのような作品はこういったいわば”王道”の印象派画法を経てから生み出されたものなのだ。「印象派画家」としてのゴッホを目の当たりにすることができる一作といえるだろう。また、本作の青い服の部分にはゴッホが自身の指で直接色を置いた跡も観ることができる。ゴッホの息吹を生々しく感じとることのできるこの点は、ぜひ展覧会にて近くでチェックしていただきたいポイントだ。

…………………………

マチスの「窓」

201704180521470b1.jpeg

…………………………

20170418053146e7c.jpeg



山本幸三・地方創生相が4月16日、滋賀県大津市で開かれた地方創生に関するセミナーの中で、観光振興をめぐり「一番のがんは文化学芸員と言われる人たちだ。観光マインドが全くない。一掃しなければ駄目だ」と発言し、波紋を広げている。時事ドットコムなどが報じた。

このセミナーは滋賀県が主催。山本氏はセミナーの中で、「『地方創生』加速の戦略~全国の優良事例~」と題して講演した。毎日新聞によると、山本氏は「地方創生とは稼ぐこと」と定義し、各地の優良事例を紹介したという。

問題の発言は、講演後に長浜市の藤井勇治市長が「インバウンド観光振興について助言を」と質問した際にあった。

朝日新聞デジタルによると山本氏は、外国の有名博物館が改装した際のことを引き合いに出し、「学芸員が抵抗したが全員クビにして大改装が実現した結果、大成功した」などとも述べたという。

また、毎日新聞によると山本氏は、京都市の世界遺産・二条城で英語の案内表示が以前は無かったとした上で、「文化財のルールで火も水も使えない。花が生けられない、お茶もできない。そういうことが当然のように行われている」とも発言した。

学芸員は、「博物館法」に基づき、博物館に置かれる専門職員。博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究などを担う。

山本氏の発言について、インターネット上では「観光客を集めまくってるルーブル(美術館)には学芸員がいないとでも?教養のなさにもほどがある」「(学芸員は文化財を)100年、200年と伝えることも義務だから言うべきことは言う」などと批判が相次いでいる。また、「文部科学大臣と文化庁長官こそが山本地方創生担当相に厳重に抗議し、発言を撤回、謝罪させるべき立場にあるとおもう」といった意見も出ている。

関連記事