平和の母

中日春秋4/17

「-海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」。三好達治の「郷愁」は『測量船』に収められている。

なるほど、漢字の「海」の中には「母」の字がある。フランス語で海は「mer」。母は「m●re」。だから「あなたの中に海がある」となる。すべての生命の源である海と、われわれを産み、育む母。漢字とフランス語の不思議な共通点が興味深い。

その国では人を傷つけ、恐怖を植えつける道具の名の中に「母」という言葉を使っているのか。トランプ米大統領がアフガニスタンでの「イスラム国」(IS)掃討作戦で初めて実戦使用した、大規模爆風爆弾(MOAB)。愛称は同じ頭文字から「マザー・オブ・オール・ボムズ」(すべての爆弾の母)である。

核兵器を除き、最大級の破壊力を有する爆弾である。その爆発エネルギーはマグニチュード6クラスの地震に匹敵するという指摘もある。ブッシュ、オバマ両政権は使用を控えてきたが、「力による平和」に取りつかれたトランプ大統領にためらいはなかったか。

「最強爆弾」の投下には対立を強める北朝鮮、シリアへの警告やけん制の意味もあろうが、最近の米国の力任せのやり方が恐ろしくもある。

爆弾は悲しみの「母」には間違いなくなれる。しかし、本当の平和の「母」にはなれまい。

※●はアクセント記号付きのe


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郷愁

 蝶のやうな私の郷愁!……。蝶はいくつか籬まがきを越え、午後の街角まちかどに海を見る……。私は壁に海を聴く……。私は本を閉ぢる。私は壁に凭れる。隣りの部屋で二時が打つ。「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。――海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」
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