察するに余る無念

水や空 4/16

今はあまり聞かないが、「立哨(りっしょう)」とは一定の場所に立って警戒し、監視することを言うらしい。かれこれ16年前の本紙に、この言葉を見つけた。「長崎市立川平小は、保護者による児童の下校時の立哨運動を始めた」。

子どもを狙ったむごい事件が全国で続発したため、とある。本県でもこの頃、小学生の女の子が男に車で連れ去られ、痛ましい姿で見つかる事件があった。子どもを狙う"怪しい誰か"がいないかと警戒し、監視する眼光は、とりわけ鋭かったに違いない。

どれほどの人が絶句しただろう。千葉県松戸市の小3女児が遺体で見つかった事件で、女児の通う学校の保護者会会長の男が死体遺棄の疑いで逮捕された。

男はいつも通学路に立ち、子どもを見守っていたという。いや、そのまなざしには見守る温かさも、不審者に向ける鋭さもなかったとおぼしい。

事件発覚後の入学式で、男は会長として「思い出をいっぱいつくってください」と祝辞を述べたという。それを奪った当人だとすれば、どんな心持ちで言ったものか。

女児の親御さんの悲痛は想像に余る。通学路に立ち続ける人たちの無念もまた、察するに余りある。「何か起こってからでは遅い」という一心でやってきた人。子どもに一片の安心を届けようと続けてきた人。歯がみをこらえきれまい。

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滴一滴 4/16

 新聞紙面には日々、多くの人の名前が載る。うれしいニュースの中の名前は弾んでいるように見える。つらいのはあまりにも早く、人生を断たれた幼い子の名前を目にするときだ。

千葉県松戸市の小学校に通っていたベトナム国籍の9歳の女の子の名は、レェ・ティ・ニャット・リンさん。ベトナム語の「ニャット」は日本、「リン」は輝きの意味で、両親は「日本で輝かしい生活を送ってほしい」との願いを込めた。

より良い教育を子どもに受けさせたいと家族で移住した。2歳で来日したリンさんは日本語の読み書きを熱心に学んだ。将来の夢は母と同じツアーガイドになることで、「日本の友達にベトナムを紹介したい」と語っていたという。

そんな女の子が、なぜ登校中に行方不明になり、殺されなければならなかったのか。近所に住む46歳の男がおととい逮捕され、衝撃が走った。男は小学校の保護者会の会長で、通学路の見守り活動にも参加していた。

許せない。うそであってほしい。誰を信じていいか分からない。その地域のみならず、日本中の親たちの悲鳴が聞こえるようだ。

「知らない人について行かない」という呼び掛けでは子どもを守れないとすれば、どんな防犯教育がいるのだろうか。見守り活動の見直しも求められるのか。まずは一刻も早い事件の全容解明が待たれる。

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鳴潮 4/16

 夢はツアーガイドだったという。出身国・ベトナムの友達に日本を紹介したい、と話していたという。漢字の勉強に打ち込んでいたそうだ。「好」は一つ上の学年、小学4年生で習う。その前から、日本を好きでいてくれたリンさんである
 
 「信」を習うのも、同じく小4。誰も信じてはいけなかったのだろうか。そう教えなければいけなかったのだろうか。千葉の小3女児殺害事件で、近くに住む小学校の保護者会長が逮捕された
 
 容疑者には小さな子どもがいて、見守り活動にも熱心だったようである。リンさんも、毎朝のように通学路で顔を合わせていたのではないか。何事かあれば、きっと守ってくれる。そう思いこそすれ、怪しむことなど、かけらもなかったはずである
 
 危険は、どこに転がっているか分からない。これから、誰を信じればいいのか。小さな子を持つ保護者は、心配を募らせているに違いない。スクールバスなど、新たな安全対策を考えるべき時期なのかもしれない
 
 卑劣の「卑」の字は、中学生になってから学ぶ。「好き」とは異なり、その意味は、相応の年齢にならなければ分かるまい。疑うことも知らないうちに、リンさんは殺され、遺棄された
 
 「なぜなの、どうして」。大声で叫びたかろう。幼い命の問い掛けに、私たちはどう応えていけばいいのだろうか。
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