エコノミークラス症候群

中日春秋

その数字が苦い。熊本地震から一年となった。数字とは犠牲者の中身である。

建物の倒壊など地震の直接的な被害による死者は五十人。これに対し震災後の避難生活などで体調を崩した結果、亡くなった震災関連死は百七十人。それは救うことができた命ではなかったか。

地震後、マイカーでの窮屈な車中泊によってエコノミークラス症候群にかかって、体調を崩した被災者が相次いだ。避難所になっていた体育館が倒れぬかという恐怖心。それが車中泊の主な理由と聞くが、プライバシー上の問題もあった。

現代人の日常はプライバシーが守られることが大前提になっている。非常時とはいえ、それが失われ、体育館での雑魚寝を突然、強いられれば、心身への負担は大きい。それに耐えられず、車中泊を選ばざるを得なかった方もいただろう。

登山家の野口健さんは震災直後、車中泊の被災者のために熊本県益城町にテント村を開いた。日本初の試みである。用意したテントは百五十九張り。約六百人が入居した。体を十分に伸ばせる。倒壊の恐怖を感じないで済む上、家族だけのプライバシー空間も保たれる。テント村の明るい雰囲気が「心の沈みがちな被災者を前向きにする」(野口さん)という効果もあるだろう。

直後の「雑魚寝」を少しでも見直したい。そこにいるのは、がまんや無理をさせてはならない人たちである。

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