素朴な琴

教育出版 5年

素朴な琴  
    八木重吉
 
このあかるさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかねて
琴はしづかに鳴りいだすだらう
教材分析

  たった4行の短い詩です。短い詩になればなるほど、その詩の意味する
表現内容は多様になってきます。いろいろと読みとれ、いろいろな解釈が可
能となります。この詩もいろいろな解釈ができそうです。「心の琴線に触れ
る」という慣用句があります。短詩になればなるほど一人一人の心の琴線に
触れる感じ方は、それぞれに多様に相違してくることでしょう。
  本稿では、わたしがこの詩から感じ取った、わたしなりの解釈内容を書
きましょう。そして、この詩の児童への指導方法についても簡単に書きま
しょう。

  まず、はじめに語句の意味内容について語り合います。
  「しづかに」「だらう」という旧かなづかいがあること、現代かなづか
いでは「しずかに」「だろう」になることを確認します。八木重吉は明治3
1年(1898)生まれ、昭和2年(1927)に29歳の若さで死亡しました。八
木重吉が生きた時代背景を知らせるのもよいでしょう。八木重吉が生存して
いるとすれば、現在109歳ですから当然に旧かなづかい使用の時代である
ことを知らせます。
 「素朴」(自然のまま、かざりけがなく、ありのまま)
 「耐えかねる」(こらえきれない。辛抱しかねる。がまんできない)
 「出だす」(出てくる。さしだす。生じさせる)
 「素朴な琴」とは、かんなをかけただけの。木目がはっきりしている。塗
り物のない。素人が手作りした。古めかしい。飾り気のない。そうした
「琴」を想像します。
 「秋のうつくしさのに耐えかねて」とは、「秋の紅葉の美しさにこらえき
れなくなって、がまんできなくなって、」ということでしょう。だから、
「ひとりでに琴は音を奏で出すようになった」ということでしょう。それだ
け秋空に生える満艦飾の鮮やかな彩りの紅葉たちであることを想像できま
す。
  秋の澄みきった空の中、太陽が明るく、柔らかいながらも強い日ざしで
紅葉した山々や森を照らし出している様子が浮かびます。鮮やかに色づいた
木々のはっぱたちがきらきらと光っています。眩しく紅葉した葉たちは赤色
や橙色や黄色や茶色や白色や緑色など、それぞれの色で鮮やかに太陽の光で
照り映え、輝いている様子が浮かびますます。
 林の中にも強い明るい日差しが差しこみ、木漏れ日となって幾筋もの細い
線となって差しこんでいます。落葉した色鮮やかな葉たちが大地の眩しい明
るいじゅうたんとなって木漏れ日の中に照り映え、一面にしきつめられてい
ます。
  これら色鮮やかな紅葉の中に素朴な琴が置かれたとしたら、素朴な琴は
じっとしていられなくなるのが当然でしょう。素朴な琴は、美しい紅葉と響
き合い、共鳴し合い、共振し合い、自分からひとりでに静かに美しい音を奏
で出だすようになるだろう。
  この詩は中心語句の意味内容はこう語っているように思います。「鳴り
いだすだらう」とは、「素朴な琴は、自分から進んで、自発的に、弦をかき
なでて奏し始めるだろう」という意味内容だと考えられます。
 この詩を読んで、色鮮やかな紅葉の中にあって音を奏でている素朴な琴の
映像(絵)が浮かびます。子ども達に、この詩の紅葉と琴と音との三者の響
き合いの情景を絵に表現させたいものです。太陽の照り輝く紅葉の中に置か
れた素朴な琴でもいいですし、木漏れ日のさす林の中の紅葉のじゅうたんの
中に置かれた素朴な琴でもいいですし、その素朴な琴が音を奏でている、そ
うした絵や映像が浮かんでほしいです。また音符記号の流れなども浮かんで
ほしいですね。
  子ども達はどんな情景の絵を描くでしょうか。個々の児童のイメージの
仕方の多様でしょう。案外、子ども達は、おもしろい絵を描くのではないで
しょうか。

  八木重吉は熱心なクリスチャンでしたから、彼の詩の中にある「あかる
さ」とか「ひかり」とか「日光」とかの語句は「イエス・キリスト。神」
を指しているとも考えられます。そのような観点から、この詩を解釈するこ
ともできます。多様な解釈があってよいでしょう。


           音声表現のしかた

  
  この詩の意味内容から考えて、この詩全四行の中で、前二行がひとつな
がり、後ろ二行がひとつながりになっていることが分かります。
  前二行は、秋の太陽が明るく照り映えている紅葉の様子を頭の中にたっ
ぷりとイメージしつつ、高い響きのある声にして、ゆっくりとした声調で、
明るい声立てで音声表現するとよいでしょう。

(この)(あかるさのなかへ)
(ひとつの)(素朴な琴を)(置けば)

と区切って読みすすめます。「置けば」のあとで間をあけて大きな切れ目を
置きます。「あかるさのなかへ」「素朴な琴」を、はぎれよく、やや高めの
声立てで、目立たせて読みます。

  後ろ二行は、いろいろな色彩の鮮やかな紅葉と、その中に位置してあっ
て音を奏でている素朴な琴を頭の中にたっぷりとイメージしつつ、ゆっくり
とたっぷりとした思いで音声表現していきます。

(秋の美しさに)(耐えかねて)
(琴は)(しずかに)(鳴りいだすだろう)

と読み下します。「秋の美しさに 耐えかねて」の「うつくしさ」を強調し
て目立たせて音声表現します。「美しさに」「耐えかねて」を二つとも、高
く強めた声立てにして強調してもよいでしょう。
  「しずかに」は、声を落として、ゆっくりと読み、次の「鳴りいだすだ
ろう」は声に動きを与えるつもりでクレシェンドにして、しだいに声が高く
なるようにして読みすすめます。あるいは、「鳴り・出・だ・す・だ・ろ・
う(お)ーー」のようにポツポツと区切って、ゆったりと読んで、思いがあ
とに残るような読み方でもよいでしょう。



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