寝台特急

天地人4/12

 上野駅から青森行きに乗る。目的はとくにない。主人公は<ただぼーっとするだけの旅>が好きなのである。そういう旅には<夜行寝台列車が最高の組み合わせ>と力説する。十和田市生まれの作家、川上健一さんの掌編『夜行寝台列車』(『旅ステージ』PHP研究所)である。

 「上野発の夜行列車」として親しまれてきたという。東北では1968(昭和43)年から、「はくつる」などとして活躍した寝台列車「583系」が先週末、引退した。秋田-弘前間のツアー運転が最後となった。

 「はくつる」の車両には、いくつか種類があるらしい。引退するのは、70~72年ごろに製造されたクリーム色と紺色のものという。6年前からJR東日本秋田支社で、臨時特急や団体用として使われてきた。

 寝台特急「はくつる」は、64年から青森と上野をむすんだ。高度成長時代から、ひとびとの夢や希望、哀愁をのせて北の鉄路をひた走った。時代の空気をはこんだ「歴史の証人」でもあった。15年前、別れを惜しむファンに見送られて、青森駅をあとにしたと聞く。寝台特急としてのラストランであった。

 快走する九州「ななつ星」を、東日本「四季島」と、西日本「瑞風(みずかぜ)」が追いかける展開である。JR各社が、寝台列車の豪華さを競う時代に入った。料金を聞くと<ただぼーっとするだけの旅>は、もうできないかもしれない。


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内容説明
いつの日か、またあの旅へ。懐かしさと新しさが静かに薫る掌篇集。
著者紹介
川上健一[カワカミケンイチ]
1949年、青森県生まれ。県立十和田工業高校卒。1977年、『跳べ、ジョー!B・Bの魂が見てるぞ』で第28回小説現代新人賞を受賞し、作家デビュー。2001年、『翼はいつまでも』で「本の雑誌」2001年度ベスト1に選ばれ、翌2002年、第17回坪田譲治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
出版社内容情報
なぜ旅に出るのか? そこに何があるのか? 行けばわかる――。その土地で出会う人、風景、懐かしい過去、まだ見ぬ未来を綴る掌編集。

思わず旅に出かけたくなるショートストーリー。

人はなぜ旅に出るのだろう――。

▼恋人と、家族と、友と、そして時にはひとりでふらりと。はじめて訪れた場所に懐かしさを感じることもあるだろう。旅先での人との出会い、ふと耳にした他の旅行者の会話、そこから湧き上がる新たな感情。そうした旅にまつわる様々な人生模様を丁寧に綴った掌篇集。

▼それぞれの物語はどれも短く、いずれも登場人物たちの人生におけるワン・シーンを切り取ったものでしかないかもしれない。しかしながら、彼らからは、彼らの過去・現在・未来が垣間見えてくる。そんな彼らを見ていると、旅が人生に与えてくれるものとは、いったい何なのだろうかと考えずにはおられない。まだ見ぬ自分を求めて、あのときの自分に出会うために、読む者を旅へと誘(いざな)う大人の旅の物語31篇を収める。

●イギリス海岸の歌 
●妻を肩車 
●記念写真 
●三年坂の妻 
●約束温泉 
●手の中のホタル 
●足踏みオルガン 
●マウンテン・バイクの母 
●「天国」横町 
●バックミラー 
●おばぁの海 
●高層ホテル 
●耳をすまして 
●あの人のホテル 
●不思議な旅へ 
●同窓会温泉 
●初恋修学旅行 
●オンボロオートバイを駆って 
●遠距離恋愛 
●在来線に乗り換えて 
●それだけで満足 
●八つの柱のキズ 
●いろは坂のバス 
●囲炉裏旅 
●冬桜 
●朝一番に 
●夜行寝台列車 
●雪を見に 
●青春と道連れ 
●鹿児島へキャッチボール 
●明日への旅路

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