よかったなあ

東京書籍 4年
            よかったなあ
                   まど・みちお


         よかったなあ 木や草が
         ぼくらの まわりに いてくれて
         目のさめる みどりの葉っぱ
         美しいものの代表 花
         かぐわしい実

         よかったなあ 草や木が
         何おく 何ちょう
         もっと数かぎりなく いてくれて
         どの ひとつひとつも
         みんな めいめいに違っていてくれて

         よかったなあ 草や木が
         どんなところにも いてくれて
         鳥や けものや 虫や 人
         何が訪ねるのをでも
         そこで動かないで 待っていてくれて

         ああ よかったなあ 草や木がいつも
         雨に洗われ
         風にみがかれ
         太陽にかがやいて きらきらと




         

           自然賛歌の詩



  一連と二連の冒頭が「よかったなあ 木や草が」です。三連と四連が
「よかったなあ 草や木が」です。1・2連の「木や草が」が、3・4連で
は「草や木」と、順序が逆になっています。
  幾つかの事物が並列して記述してある場合は、筆者としては重要度の高
いところから先に書いていく意識があること当然です。1・2連では草より
木が重要視されています。3・4連では木より草が重要視されています。し
かし、この詩では、木が重要視(強調)されているとか、草が重要視(強
調)されているとか 、ではないように思われます。木も草も、双方も同じ
重要度であって、差異をつけることはできない、それで、全体四連の中、1
連と2連では木を先に書き、3と4連では草を先に書き、こうして平等性と
いうか対等性をつけているのではないかと思います。また、単調になる繰り
返しを回避するため、変化をつけて、1・2連と、3・4連とで順序を逆に
しているようにも思われます。

  この詩には、「よかったなあ………いてくれて」の繰り返しがありま
す。「草や木がいてくれて」「木や草が、ぼくらのまわりにいてくれて」
「何おく何ちょういてくれて」です。「いてくれて」であって「あってくれ
て」ではありません。木や草を擬人化して人格化しています。木や草を、人
間と同じに扱い、同じに生活している仲間として、木や草に対して「ありが
たいことだなあ」「よかったなあ」と、心からの感謝の気持ちを伝えていま
す。
  一連では、木や草、緑の葉っぱ、花、実に感謝しています。
  二連では、木や草がどれ一つとして違っていてくれて、数限りなくいて
くれて、よかったなあと感謝の気持ちをいっぱいにして語っています。
  三連では、草や木が、いたるところに生育していてくれて、よかったな
あ、と感謝しています。人間だけでなく、鳥やけものや虫にとっても、よ
かったなあ、と感謝しています。三連では、草や木(植物)と動物とを対比
しています。草や木は、人間だけでなく、鳥にも、けものにも、虫にも、地
表のいたるところ、あらゆるところに生育していてくれて、「いらっしゃ
い。おいでやす」と歓迎し用意万端ととのえて待っていてくれる。ほんとに
ありがたいことだなあ、と深く感謝しています。
  四連では、これまでの三連までをまとめ、最後に改めて「よかったな
あ」の前に「ああ」の感嘆詞をつけて強調し、更なる深い感謝の気持ちで
「よかったんあ」と表明しています。

  もし、地球上に草や木が皆無だったらどうだろう。こう子ども達に問い
かけたら、いろいろな回答が返ってくるでしょう。
  草や木は人間や鳥やけものや虫たちの食用となるだけでなく、住居と
なり、生活の拠点となり、人間にとっては心をうるおし、心を安らかにして
くれます。
  特に日本人は万葉集をはじめとし和歌、俳句、物語の世界では自らの人
生を大自然に投影し、同化し、大自然と心情を一体化して生活し、そして農
作業や年間行事のなかにとけこませて、大自然と共に・一体となって日常生
活を営んできました。
  四連では、草や木が、いつも、「雨に洗われ、風に磨かれ、太陽に輝い
て、」という順番で書いてあり、この順番での表象がありありと浮かぶよう
な記述になっています。
  いつも、きらきらと輝いて生育していてくれて、よかったなあ、ああ 
ほんとに  よかったなあ、と感謝の気持ちいっぱいにして語っていま
す。これからもそうあってほしいなあ、という願いも込めて、感謝の気持ち
を表明しているように思います。この詩は、大自然(草や木)への賛歌の詩
です。


           音声表現のしかた


●第一連●
  各連の冒頭「よかったなあ」は感動詞のような言葉です。感動している
ように、感極まっているように、感じ入ってぐっときている気持ちを込めて
音声表現しましょう。
  正常な語順は「木や草がぼくらのまわりにいてくれて、よかったなあ」
です。これが強調され、語順変形されて、強調すべき語句が先にきていま
す。この強調の意識をくずさないようにして読みます。【よかったなあ、木
や草が】【ぼくらのまわりにいてくれて】という区切りをくずさないで音声
表現します。
  つづく行の区切りは【よかったなあ、木や草が】【美しいものの代表、
(それは)花】(と)【かぐわしい実】と、なります。各三行が独立しつつ
も、「よかったなあ」の例示として三つが挙げられていることを意識して音
声表現します。

●第二連●
  はじめの三行は、第一連と同じ音声表現のしかたです。「何おく、何
ちょう」にさらにたたみかけて、さらに強調して「もっと数かぎりなきいて
くれて」」と音声表現していきます。
  4・5行は、【どの、ひ、と、つ、ひ、と、つ、も】【めー、めー、ち
がって、い、て、く、れ、て、】のように、ぽつりぽつりと区切りを入れ
て、強調します。【ひとつひとつ、めいめいが、違っていてくれて、(あり
がたい)】という感謝の気持ちを込めて、いっぱいにして、ゆっくりと、一
つ一つの音(おと)をていねいに区切って押さえるようにして音声表現して
いきましょう。

●第三連●
  はじめの二行は、第一連と同じ音声表現のしかたです。
  3・4・5行は【鳥やけものや人(たちは)】【何が訪ねるのを、で
も】【そこで動かないで、(じっと)まっていてくれて(ほんとうに、よ
かったなあ)】という気持ち・思いで音声表現していくと意味内容が音声に
出るようになるでしょう。

●第四連●
  「ああ」は、心底から感嘆・感動しているようにやや大げさ気味に音声
表現すると、ちょうどよい音声表現になるでしょう。「ああ、よかったな
あ、草や木が」は、テンで区切りつつも、ひとつながりの意味内容にして音
声表現していきます。
  2・3・4・5行は、それぞれの行の表現内容をたっぷりとイメージし
つつ、四つの例示が並列・併記していることが分かるように音声表現で示し
ていくことが大事です。
  「きらきらと」は「太陽にかがやいて、きらきらと」というつながりよ
りは、「きらきらと」を第四連の6行目に独立させて、これまでのまとめと
いう意味内容にして、つまり「太陽にかがやいて」から離して、最後のまと
めの「きらきらと」にして、硬質に光ってまたたく、目立たせの声質にして
音声表現していくとよいでしょう。
  

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