あぎれのない文

正平調 4/6

「理科系の作文技術」は物理学者木下是雄(これお)さんが論文の書き方を説く本だ。出版35年目の昨年、100万部に達し話題になった。

例えば、こんな一文を悪しき例として挙げている。「黒い目のきれいな女の子」。これでは「黒い目の、きれいな女の子」とも「黒い、目のきれいな女の子」とも読めてしまう。「まぎれのない文」を心がけよと教える。

官邸も読んで学べばいい。教育勅語を学校で扱うことについての政府答弁書は「まぎれの文」である。「教育の唯一の根本とするような指導は不適切」としながら、「憲法や教育基本法に反しない形で教材として用いることまでは否定されない」。読んで「?」である。

戦前の教育勅語は軍国主義教育と結びついた。その考えを21世紀の教育現場に持ち込んではいけないと言うのか、いや場合によっては…と言うのか。分かりにくいし、これでは都合のいいように解釈され、独り歩きする。

「だるまさんがころんだ」という子どもの遊びがある。鬼役の子は短い掛け声を唱える間は振り返らない。その背後から少しずつ近づき、背中にタッチする。

日々の暮らしに追われ、振り返ることなく過ごすうち、背後から少しずつ近づいてくるものがありはしないか。教育勅語をめぐるこのところの動きを見るにつけ、心配性の胸は騒ぐ。
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