現代語訳

滴一滴 4/5

平安時代に清少納言がつづった「枕草子」。冒頭の有名な一節を「春って曙(あけぼの)よ!」に直すなど、全文を現代の女子高校生の話し言葉調に訳したのは作家の橋本治さんだ。

何かにつけて「いとをかし」と言う清少納言は、「かわいい」を連発する現代っ子に例えると確かに分かりやすい。古典の現代語訳には、時を隔てて分かりにくくなった意味を伝える効用がある。

作家の高橋源一郎さんが現代語訳した「教育勅語」が話題だという。先月、ツイッターに投稿した。原文は明治に作られ、国民が国家への忠誠心を養うよう、教育や道徳の基本理念を示している。

軍国主義につながったなどとして戦後に国会でも否定された教育勅語だが、親孝行や夫婦の和を説くなど現代に通用する内容もあると再評価する動きがある。ただ、「朕(ちん)惟(おも)フニ」で始まる文章は難解で、善しあしを考えにくいのは確かである。

高橋訳では、国家に貢献を求めるくだりはこうなる。「天皇家を護(まも)るために戦争に行ってください。それが正義であり『人としての正しい道』なんです」。

その教育勅語について、安倍政権は教材に使うことを否定しないとの答弁書を閣議決定した。閣僚からも擁護の発言が続く。負の側面を学ぶのならともかく、勅語の復活を目指すような動きは見当違いだろう。ぜひ憲法と読み比べてみたい。



…………………………


教育勅語①「はい、天皇です。よろしく。ぼくがふだん考えていることを
いまから言うのでしっかり聞いてください。もともとこの国は、ぼくたち
天皇家の祖先が作ったものなんです。知ってました?
とにかく、ぼくたちの祖先は代々、みんな実に立派で素晴らしい徳の
持ち主ばかりでしたね」

教育勅語②「きみたち国民は、いま、そのパーフェクトに素晴らしい
ぼくたち天皇家の臣下であるわけです。そこのところを忘れては
いけませんよ。その上で言いますけど、きみたち国民は、長い間、
臣下としては主君に忠誠を尽くし、子どもとしては親に孝行をして
きたわけです」

教育勅語③「その点に関しては、一人の例外もなくね。その歴史こそ、
この国の根本であり、素晴らしいところなんですよ。そういうわけです
から、教育の原理もそこに置かなきゃなりません。きみたち天皇家の
臣下である国民は、それを前提にした上で、父母を敬い、兄弟は仲良
くし、夫婦は喧嘩しないこと」

教育勅語④「そして、友だちは信じ合い、何をするにも慎み深く、博愛
精神を持ち、勉強し、仕事のやり方を習い、そのことによって智能を
さらに上の段階に押し上げ、徳と才能をさらに立派なものにし、
なにより、公共の利益と社会の為になることを第一に考えるような
人間にならなくちゃなりません」

教育勅語⑤「もちろんのことだけれど、ぼくが制定した憲法を大切に
して、法律をやぶるようなことは絶対しちゃいけません。よろしいですか。
さて、その上で、いったん何かが起こったら、いや、はっきりいうと、
戦争が起こったりしたら、勇気を持ち、公のために奉仕してください」

教育勅語⑥「というか、永遠に続くぼくたち天皇家を護るために戦争
に行ってください。それが正義であり「人としての正しい道」なんです。
そのことは、きみたちが、ただ単にぼくの忠実な臣下であることを証明
するだけでなく、きみたちの祖先が同じように忠誠を誓っていたことを
讃えることにもなるんです。

教育勅語⑦「いままで述べたことはどれも、ぼくたち天皇家の偉大な
祖先が残してくれた素晴らしい教訓であり、その子孫であるぼくも臣下
であるきみたち国民も、共に守っていかなければならないことであり、
あらゆる時代を通じ、世界中どこに行っても通用する、絶対に間違い
の無い「真理」なんです」

教育勅語⑧「そういうわけで、ぼくも、きみたち天皇家の臣下である
国民も、そのことを決して忘れず、みんな心を一つにして、そのことを
実践していこうじゃありませんか。
             以上! 明治二十三年十月三十日 天皇」
                        (高橋源一郎訳)
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