窯変

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映画監督というより、人間としての生き方が語られている…

黒澤明の一生を支えていたものは「失敗」です。数多くの名作は、失敗作のあとに生まれています。代表作「生きる」は不評だった「白痴」がなければ生まれなかったと言われています。「僕は戦いに敗れることを活力源にして次々に戦いに挑んでいる」。何があっても前に進む。失敗は成功するための因です。これが、黒澤明の人生哲学なのです。

本書には数多くの失敗と成功が散りばめられています。黒澤明は、失敗を乗り越え、次の高みを目指す時、必ず古今東西の名著が傍らにありました。「七人の侍」の時は、トルストイの「戦争と平和」を携えています。「本を愛するというよりは、その前に跪ずいている」という言葉は、どれほど本が自分の人生にかけがいのないものかを端的に表しています。読書離れと言われる今日、黒澤明のこの一言は重いのです。いままで、黒澤明の言葉は、新聞・雑誌・書籍等で数多く取り上げられてきましたが、デビューから亡くなる八十八歳までを年齢・年代別に時系列的に編集された本書は、年齢とともに移り変わる主張、一貫して変わらない考え方がわかり、身近に黒澤明を感じることができます。


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卓上四季 4/1

映画「雨月物語」で知られる溝口健二監督は、演技に一切助言しないことで有名だった。俳優ではないので演技は素人、というのが理由らしい。

女優の香川京子さんも指示がないまま「どうぞ」と言われていろいろ試すが、監督から「違う」を繰り返され、困り果てた。不親切かもしれないが、溝口監督を敬愛する黒澤明監督は「俳優が絞り出さなければ、しょうがなくなる」と教育効果を認めていた(都築政昭著「黒澤明の遺言」)。

きょうから新年度。社会人生活をスタートさせる方も多いだろう。手取り足取り教えてもらうのも、研修の間だけ。職場に配置されれば、いきなり「どうぞ」と言われるかもしれない。

私事で恐縮だが、入社早々に「取材に行け」と指示され、何を聞いて、どう書けばいいのか、さっぱり分からなかった。冷や汗たらたら文章を「絞り出す」ほかなかった。

突き放しているようだが、上司からすれば初めから正解を求めているわけではない。どこに目を付けているのか、問題意識の方を探ろうとしていたのだろう。そこが分かれば伸ばすべき芽が見えてくる。

黒澤監督は「演出窯変」という言葉をよく使った。土の器も窯で焼くと色や形が変わって味わいが出てくる。映画もスタッフの意見を取り入れ、面白みを増す。「最初から器用にまとまると僕は機嫌が悪い」。黒澤監督の言葉は新人への応援歌にも聞こえる
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