朝が来ると

【朝がくると】まど・みちお

朝がくると とび起きて
ぼくが作ったものでもない 水道で 顔をあらうと
ぼくが作ったものでもない
洋服を きて
ぼくが作ったものでもない
ごはんを むしゃむしゃたべる
それから ぼくが作ったものでもない
本やノートを
ぼくが作ったものでもない
ランドセルに つめて
せなかに しょって
さて ぼくが作ったものでもない
靴を はくと
たったか たったか でかけていく
ぼくが作ったものでもない
道路を
ぼくが作ったものでもない
学校へと
ああ なんのために
いまに おとなになったら
ぼくだって ぼくたって
なにかを 作ることが
できるように なるために

…………………………

中日春秋 4/1

 百四歳で天寿を全うした詩人まど・みちおさんに、「朝がくると」という詩がある。<朝がくると とび起きて/ぼくが作ったのでもない/水道で 顔をあらうと/ぼくが作ったのでもない/洋服を きて…>。

自分で作ったのではない本や文房具を持ち、自分で作ったのではない学校に向かう。それは何のためか。詩は、こう結ばれる。<いまに おとなになったなら/ぼくだって ぼくだって/なにかを 作ることが/できるように なるために>

きょうから四月。今春はおよそ八十九万人が新社会人として歩みだすという。いよいよ自分で、だれかのために何かを作り始める。そういう朝を迎えるわけだ。

毎朝、人間が寝床から起き上がることを可能にする力は何か。それは「楽観」だと、英国の心理学者エレーヌ・フォックス博士は『脳科学は人格を変えられるか?』で説いている。

興味深い調査がある。一九三〇年に修道院に入った百八十人の数十年分の日記を調べると、明るく陽気な日記を書いていた修道女は、暗い日記を書く人より平均で十年も長生きしていた。驚くべき楽観の力だ。

フォックス博士は楽天家の至言として、エジソンの有名なひと言を挙げている。電球の試作の失敗が一万個に達したことを知った時、発明王曰(いわ)く、<失敗したのではない。うまくいかない方法を一万通り見つけただけのことだ>。


…………………………
20170401052247679.jpeg

『脳科学は人格を変えられるか?』

「サニー・ブレイン」晴れ
オックスフォード大学感情神経科学センター教授、エレーヌ・フォックス博士は
世の中には楽観的な性格の人と悲観的な性格の人の2つの性格があり、「逆境にも強く前向きな人」のポジティブな脳を「サニーブレイン」(楽観脳)、「後ろ向きで打たれ弱い人」のネガティブな脳を「レイニーブレイン」(悲観脳)と呼び、なぜ同じことが起こってもプラスとマイナスの反応をしてしまうのかを、心理学、分子遺伝学、神経科学の各分野を横断しながら、人格がどのように形成されていくのかということを数々の科学的な根拠をもとに明らかにしています。

悲観論者は『人生は自分でコントロールするなんてできない』と信じている。

それとは対照的に、楽観論者は、『物事は最後にはうまくいく』という強い信念から行動し、たとえ問題が起きても、自分の未来は自分が物事にどう対処するかで決まると信じている。」という。

さて、あなたの人生の幸福度を調べてみましょう!
□1.だいたいの点において、私の人生は理想に近いものだ
□2.私の人生の状況はすばらしい
□3.私は自分の人生に満足している
□4.これまでのところ、私は人生において自分が望む重要なものごとを手に入れてきた
□5.もし人生をやり直せるとしても、私はほとんど何も変えたいとは思わない

1=まったくあてはまらない、2=あてはまらない
3=あまりあてはまらない、4=どちらともいえない
5=少しあてはまる、6=あてはまる、7=非常にあてはまる

合計30~35点の人は「非常に満足度が高い」
合計25~29点の人は「満足度はかなり高く、おおむね順調」
合計20~24点の人は「先進国の平均的スコア」
だいたい満足しているが、「もっとよくできるはず」と感じている。
合計10~14点の人は「不満足」
合計5~9点の人は「極度に不満足」

参照:『脳科学は人格を変えられるか?』(エレーヌ・フォックス:著 森内薫:訳/文藝春秋)

…………………………

 書店に行くと「ポジティブ・シンキングがあなたを変える!」など、“前向きになって、人生バラ色になっちゃいましょう!”という自己啓発本が山積みになっている。しかしそんなことをいくら言われたところで、自己啓発本を何冊も読んだところで、後ろ向きな性格はなかなか前向きにはならない。「生まれつきだからどうしようもない」「遺伝子で決まってるんだなと諦めた」「いいことがあると思ってみたけど、そんなこと一切なかった」…そんな「後ろ向きな人」に、ぜひお勧めしたい本がある。「なぜ逆境にも強く前向きな人と、後ろ向きで打たれ弱い人がいるのか」という疑問を中心に、感情の科学について幅広く研究するオックスフォード大学感情神経科学センター教授であるエレーヌ・フォックス博士の『脳科学は人格を変えられるか?』(エレーヌ・フォックス:著 森内薫:訳/文藝春秋)だ。


フォックス博士は「逆境にも強く前向きな人」のポジティブな脳を「サニーブレイン」(晴天脳)、「後ろ向きで打たれ弱い人」のネガティブな脳を「レイニーブレイン」(雨天脳)と呼び、なぜ同じことが起こってもプラスとマイナスの反応をしてしまうのかを、心理学、分子遺伝学、神経科学の各分野を横断しながら、人格がどのように形成されていくのかということを数々の科学的な根拠をもとに明らかにしていく。つまりこの本は誰かの成功体験などをベースにした自己啓発本ではない。確固たる研究の成果をもとに書かれているのだ。とはいっても学術書ではないので、難しいところはない。「へー!」「ほー!」「そうなのか!」と膝を何度も打ちながら読み進められる。

「サニーブレインの中心は神経構造の中でとくに、報酬や気持ちの良いことに反応する快楽の領域にあり、レイニーブレインの中心は脳の古い構造部の中、とくに危険や脅威を警戒する恐怖の領域に存在している」そうで、これは人間が生き延びていくために必要な能力だ。蛇を見たら驚いて飛び上がる、というのはレイニーブレインが働くおかげなのだが、敵に襲われることや飢餓に見舞われることの少ない現代においても、危険が人の注意を惹きつける力は強烈で、たやすく克服されるものではないという。しかし「生まれつきだから」と思いがちな性格だが、サニーブレインとレイニーブレインの回路は、脳の中でも一番可塑性の高い場所であり、それは環境などで変化していくというのだ。フォックス博士は脳内の活動や大脳、海馬、側坐核、扁桃体といった部位がどのように連携しているのか、さらには最新の遺伝子研究などから、なぜ脳内の回路が変わっていくのかを明快に説明していく。

またフォックス博士は「ポジティブに思考するだけで良い出来事が起こる」ということに対しては「問題解決とは似て非なるもの」と否定している。物事を前向きに捉えるだけではなく、自分に何ができるのかを考え、行動に移すことができないと「良い出来事」は起こらない…つまりポジティブな人は自ら「行動」を起こしているのだ。そしてただ単に物事の明るい面だけを見ることが「オプティミズム」(楽観主義)なのではなく、「世界を善悪こみであるがまま受け入れ、なおかつ、そこに潜むネガティブなものに屈しないこと」だと言っている。

「個人を個人たらしめている記憶や信念、価値観や感情、そして習慣や性格の特徴などの要素はどれもみな、脳の中でニューロンがどんなふうにネットワークをつくりどのように連結するかに関連」しているので「このパターンを変化させられれば、自分を変えることもきっとできる」と、抑うつなどを科学で癒やせる可能性はあるとフォックス博士は語っている。確かに「人が状況にどう反応するかは、先天的な資質と後天的な環境に左右される」のだが、「どんな遺伝子の構造をもっていても、どんな出来事に見舞われても、それで人生の道筋が決まるわけではない」ので、「人生の舵は自分が握っている」という感覚を持つことが非常に重要だという。数々の科学的根拠に裏打ちされた本書は「そうか、ネガティブに考えてしまうのは、こうなっていたからなのか」と納得した上で、後ろ向きな自分を変えるきっかけになる読書体験になるはずだ。

関連記事