デラックスな金庫

中日春秋 3/31

ショートショート(超短編小説)の名手・星新一さんに「デラックスな金庫」という作品がある。ほとんど全財産をつぎこんで、大金庫を作った人物の話だ。

鋼鉄製で外側は銀張り、内側は金張りという豪華きわまりない大金庫のため、家も手放してしまったので、アパートの一室で暮らす。暇さえあれば金庫を磨き上げ、ぴかぴかとなった金庫の表面が自分の姿をうつすのを見て悦に入っているが…と、話は進む。

政府の面々も、この話の主人公に似ているかもしれぬ。彼らが大切にしているのは、世論の大きな反対を押し切って手に入れた「特定秘密保護法」という大きな金庫だ。

その中には、何が入っているか。本来は金庫に収めてはならぬもの、国民に明らかにしなくてはならぬ情報も入っているのではないか。それを点検する衆院の情報監視審査会の報告書によると、四百四十三件の特定秘密のうち、何と四割弱の百六十六件は「文書」そのものがない、と分かったという。物々しい特定秘密の金庫を開けたら、中はカラッポだった…というのだから、おかしな話だ。

「デラックスな金庫」の主人公も実は、金庫の中には何も入れていない。豪華な金庫を狙って忍び込む輩(やから)を、金庫の中に閉じ込めてしまうのだ。

さて、「特定秘密」の大金庫に閉じ込められているのは、何か。それは、私たちの「知る権利」ではないのか。



本作『デラックスな金庫』は新潮社刊『ボッコちゃん』収録の一篇。
短編です。

本来、宝を保管する筈の金庫が、逆に閉じ込める檻となる発想の転換。
この金庫の意味が逆転する点が秀逸です。

同時に、被害者と加害者の立場も入れ替わる。
この2重の逆転が面白い作品です。

<あらすじ>

私は大きな特注品の金庫を持っている。
自宅であるアパートの一室の半分以上を占拠したそれ。
友人たちは金庫に否定的だが、私は満足していた。

そんなある日、泥棒がやって来た。
どうやら金庫の噂を聞きつけてのことらしい。
泥棒は私を縛り付けると、聞き出した番号を用い、金庫を開けた。

途端、内側から光が泥棒を照らし出す。
金庫の内壁はその名の通り金で出来ていたのだ。
人1人が優に出入りできるその大きさに驚きつつも中へと入る泥棒。
ところが、中には金の壁以外何もない。
呆気にとられているところへ、入り口が閉まってしまう。
閉じ込められた泥棒。金庫は内側からは開かない。
こうして、泥棒は虜となってしまった。

私は内心、快哉を叫んでいた。
あとは泥棒をしかるべき機関に突き出すだけだ。
それで、賞金を受け取ることが出来るだろう。
上手く行ったのだ、これでまた金庫の内装が一段と分厚くなるのである―――エンド。
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