旅へのあこがれ

凡語 3/30

一切を捨てて旅に出た「私」は朝の香港の街を歩き出す。<さて、これからどうしよう…。そう思った瞬間ふっと体が軽くなったような気がした。今日一日、予定は一切なかった…すべてが自由だった>。

作家沢木耕太郎さんが自身の体験をつづった「深夜特急」を学生時代、何度読み返しただろう。当時、海外旅行は遠いあこがれであり、お金と勇気が要った。格安航空券と鉄道で夏の欧州を1カ月も回った友人がまぶしかった。

それから30年余。今や小さな子どもを連れての海外旅行さえ手軽に行ける時代になった。それを後押ししてくれるのがインターネットで簡単に検索、予約できる格安ツアーだ。

手広く扱っていた旅行業者「てるみくらぶ」が破綻した。影響は9万人に及ぶという。楽しみにしていた海外に行けず、支払った代金の弁済はすずめの涙とあっては泣くに泣けない。

夢やあこがれを裏切った経営責任は重いが、安売り競争の裏で無理な料金設定や決済方法が業界で常態化しているとの指摘もある。安さはうれしいが、安心して旅行できることが一番だ。

大型連休まで1カ月。突然の倒産劇に足がすくむ思いだが、それでも行きたくなるのが旅である。沢木さんは旅に出る人にこんな言葉を贈っている。<恐れずに。しかし、気をつけて>と。

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作家 自作を語る

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