春が攻めよせてくるのを冬が抗戦している

 「春」という言葉の語感は、何となく優しい。しかし3月の天気は実際には荒れやすい。「春嵐」「春疾風(はやて)」などという季語があるのがその証拠。この現象は日本だけではないようだ。
 
 チェコの国民的作家カレル・チャペックが書いた「園芸家12カ月」の3月の章には、「春が攻めよせてくるのを冬が抗戦している」とある。悪天候になるのは冬の寒気団と春の暖気団が衝突し、温帯低気圧が発達することによる。

 栃木県のスキー場で、高校の山岳部員らを対象に行われていた「春山安全登山講習会」が一瞬のうちに暗転した。雪崩に巻き込まれ生徒7人、教員1人が死亡。無残にも散った青春の命の重さに言葉を失う。
 
 専門家は「表層雪崩」の可能性を指摘している。固くなった古い雪の層の上に積もった新雪が、猛スピードで滑り落ちる。過去に何度も犠牲者を出している危険な雪崩である。当日は雪崩注意報などが出されており、大雪も降っていた。
 
 こうした状況から、登山経験の豊富な指導の教員らは、当初計画していた登山を中止している。しかし、雪をかきわけながら進む「ラッセル訓練」に切り替えて雪崩にのみ込まれた。悪天候の中で、いっそのこと訓練を中止する判断はできなかったのだろうか。

 自然への挑戦は人を鍛えもするし癒やしもする。しかし自然は刻々と表情を変え、リスクも潜めている。登山に限らず改めて細心の注意を払いたい。


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カレル・チャペック「園芸家12カ月」

カレル・チャペック、我々の業界なら「ロボット」の名付け親として名前は知られているだろう。そのSF作家というイメージとは裏腹に「園芸家12カ月」である。

本書は先輩の結婚式の二次会のプレゼントとしてもらったものだ。「結婚生活とは園芸に似て手間のかかるものなのか?」などと思いながら、とんと園芸には興味の無い私によって、本書は本棚の隅でほこりをかぶっていた。そんな折、techな人にお勧めする「意外な」一冊とお題を頂いて、10年振り(?)に手に取ったのが本書である。

ぱらぱら頁をめくる。山のように出てくる植物の99%は聞いたこともないけど、そんなことはどうでもいい。園芸マニアとでも言うべきアマチュア園芸家の生態がユーモラスに描かれている。例えば、偏執狂、収集熱、魔法の儀式……。そこで気付く。あぁ、なんと我々プログラマと同じではないか。

「園芸家は、花の香に酔う蝶なんかにはならない。窒素をふくむ、かおり高い、くろぐろとした、ありとあらゆる大地の珍味をもとめて、土の中をはいまわるミミズになるだろう」(本書 p.44より)
どこか裏方に徹する我々と通じるものがないだろうか。土壌の改良だ、病害虫駆除だ、嵐が来るだと、翻弄される園芸家の姿は、シェルやエディタの設定ファイル、自前ツールやライブラリをああでもないこうでもないと日々嬉々として手入れしているプログラマの姿に重なる。

納期のない趣味のプログラミングも園芸も完成することがない。園芸家は、花屋に並ぶようなバラの花を育てるためには、どんな環境とアプローチが必要で、どんな虫に気を付けなければいけないか、一家言もっている。園芸家ごとにてんでばらばらで、宗教じみているが(笑)。花が咲く頃には興味は別の所に移っているのだが、これも言わずもがな。

チャペックが本書を執筆していたのは今の私と同年齢のころ、時代はナチス・ドイツが台頭し始めた1920年代後半。そんな時期にチャペックは何を思い、こんな本を書いたのだろう? 落葉し寒々とした季節の11月。「未来は芽の姿で、わたしたちといっしょにいる」(本書 p.174より)と書いた筆者の胸の内は如何に。そんなことを考えながらもう一度読み返してみたい。

まとめ。純粋に読んで楽しく、プログラマの魂にも訴えるものがあるということでお勧め。
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