にくきもの

<金口木舌> 3/24


 蚊は何と鳴くか。今なら「ブーン」だが、平安時代の人たちには「カー」と聞こえたらしい。清少納言は枕草子の「にくきもの」で、顔の周りを自ら名乗って飛ぶとつづった。別の古文書では「加阿(かあ)」と記されている。

国語学者・山口仲美さんの著書によると、当時は犬の鳴き声は「びよ」、猫は「ねうねう」と聞こえたという。現代人との感覚の差が面白い。時代が移ると、言葉は変わる。

次期学習指導要領で「聖徳太子」を「厩戸王(うまやどのおう)」に変更することが検討された。当時は使われず没後の呼称というのが理由だが、文部科学省に寄せられた意見は反対が多く、見送られた。同じく「鎖国」も教科書から消える運命だったが、存続させる方針だ。

最新の歴史研究で定説が改まることはある。1879年の「琉球処分」も、近年は「琉球併合」を使う動きが広がる。琉球は処分される悪事を働いたわけでもなく“不適切”な表現だからだ。同じく、琉球が使節団を送った「江戸上り」も、主従関係ではない「江戸立」への変更が進む。

こちらはどうだろう。「共謀罪」を「テロ等準備罪」に言い換えた法案が閣議決定された。もちろん、学術的観点からではなく、別の魂胆が見え隠れする。

「戦闘」を「武力衝突」に、「墜落」を「不時着」にすり替える最近の政府の動きは、清少納言でなくとも目障りな「にくきもの」と言いたくなる。



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