もやし

地軸 3/24

 「モヤシの地位は不当に低い気がする」。作家の椎名誠さんが自著でこう分析する。中華料理店がモヤシを使わなければ、「正しい」野菜炒めは成立しない。実力の割に軽んじられている原因は「安さ」にあると。

 就職して間もないころ、懐が苦しくなると何度も救われたのを思い出す。さっと炒めた簡単な料理でも、シャキシャキとした心地よい食感が食卓の寂しさを紛らわせてくれた。

 「窮状にご理解を」。先週、もやし生産者協会がホームページに載せた切実な訴えに目を奪われた。経費節減は既に限界を超えて「このままでは日本の食卓から消えるかもしれません」。求めているのは適正な小売価格。

 先日、スーパーをのぞいてみると1袋29円だった。協会によると、小売価格は2005年に比べて1割下落したという。一方で原料の緑豆の仕入れ値は3倍も上昇。生産者は09年に全国で230社あったが、経営難で廃業が相次ぎ、現在は130社を下回る。

 日本人との付き合いは古い。江戸時代初期には東北で盛んに育てられていた。新鮮な野菜が不足する冬でも、温泉の熱を利用した土耕栽培で収穫できたためだ。雪国では冬を乗り切る貴重な栄養源になっていたのだろう。

 安値安定の「物価の優等生」と、いつまでも褒めたたえているわけにはいかない。「もやしっ子」という軟弱なイメージとは異なる庶民の強い味方に頼もしさを感じつつ、生産者の苦境を思う。
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