美しい詩

正平調 3/21

日本人で初めてノーベル物理学賞をもらった湯川秀樹博士は、科学を詩になぞらえた。「どちらも自然を見ることから始まる」。

こうも言った。何げない景色や数式の中に、自然がつむいだ美しい詩を見つけられるのは優れた科学者の特権だろう。しかし、たとえ一人による発見でも、その感動は多くの人と分かち合えるのだと。

確かに科学者とは、自然美に魅せられるうちにその理を解いて、世に恩恵を分かつ存在に違いない。その数、3千人。世界でも指折りの陣容だろう。湯川も在籍した「理化学研究所」が今月、創設100年になるという。

弁当箱に使われたアルマイトもここの開発だと聞けば、親しみもわく。最近は新元素ニホニウムの命名が記憶に新しい。一方、先の大戦では戦争協力にかじを切った。STAP細胞という混乱が招いた傷は現在も深く残る。

されど、兵庫はいまや理研の一大研究拠点である。大型放射光施設「スプリング8」が佐用町にできたのは20年前。神戸には処理速度世界一のスーパーコンピューター「京(けい)」がある。iPS細胞の分野では、世界初となる移植手術も成功させた。

〈物みなの底にひとつの法ありと日にけに深く思ひ入りつつ〉湯川秀樹。100年先の子孫と分かち合う美しい詩を、きょうもどこかの研究室で読む人がいる。
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