自然の真心の形

中日春秋 3/14

カタツムリの殻は、いつもピカピカしている。じめじめした場所で暮らしているのに、実に清潔である。

カタツムリの殻の表面には、とてつもなく細かい凹凸がある。だから油汚れが付いても油と殻の表面の間に水が入り込んで、油を浮かせてしまう。そんなカタツムリの殻の構造から、汚れにくく掃除のしやすいタイルが生まれたそうだ。

大きな羽音を立てずに飛び、獲物を仕留めるフクロウの羽を参考にしたら、新幹線のパンタグラフの騒音が、三割以上も減った。先端にギザギザがある蚊の針をまねたら、刺す痛みが少ない注射針が生まれた(石田秀輝ほか著『地球が教える奇跡の技術』)

そういう「自然の造形の妙」から教わった発明品の中でも、これは歴史的傑作の一つだろう。このほど日本化学会の化学遺産に指定された、おなじみの蚊取り線香である。

上山英一郎(一八六二~一九四三年)が最初に作った蚊取り線香は細い棒だった。四十分ほどしか持たないから、安眠などできぬ。苦心する英一郎に「渦巻き型なら:」と勧めたのは、妻ゆき。蛇がとぐろを巻いているのを見て、形を思いついたと伝えられる。

物理学者・寺田寅彦は<科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打明けるものである>と説いたが、あの絶妙な渦巻きもまた、自然の真心の形なのだろう。


20170314051121480.jpeg



 環境問題は、節電の問題や代替エネルギーの必要性など、ますます重要視されていますが、なかなか進まないのが現実です。否定的なことばかりより、もっと前向きに考えましょうということで、この本ではネイチャー・テクノロジーを取り上げながら、Q&Aの対話形式で新しい暮らし方を提案しています。

 人間以外の生物は自然の循環の中で生き、自然を傷つけることはしません。そして驚きのテクノロジーを持っています。

・カタツムリの殻はどんな泥の中でも汚れません。そのナノテクから汚れが落ちるキッチンシンクを開発。
・シロアリの巣は砂漠の中でもいつも一定の温度を保ちます。その土からヒントを得てタイルを開発。家の中はエアコンがなくてもいつも快適です。
・アワビの殻は1mmに1000層以上の炭酸カルシウムが重なっているため、ほとんど壊れません。ここから割れないセラミックスを開発。
・トンボの羽根はゆっくり飛ぶことができ、安定しています。これはトンボの羽根の溝で空気の渦を作っているからです。風力発電に使えばそよ風を効率よく電力に変えることができます。
・泡風呂は水がほとんど要りません。泡がはじけるときに出す超音波が洗浄機能を持つので、石鹸なども要りません。車いすのまま入れます。

 著者・石田秀輝氏は、東北大学大学院環境科学研究科教授。専門は地質・鉱物学をベースとした材料科学。INAX技術統括部空間デザイン研究所所長などを経て現在は、ネイチャーテック研究会を発足し、あたらしいものつくりの研究・啓発活動を行っています。

 環境問題には今までとは違う視点が必要なのかもしれません。こんなアイディアが実現化して、お金のためではない豊かな生活にシフトできるといいですね。

 ※『地球が教える奇跡の技術』石田 秀輝著 祥伝社 
関連記事