アイク

中日春秋 3/8

「諸君の仕事は、私の仕事をなくすことです」。ある学校の卒業式で、そう式辞を述べたのは、第二次世界大戦の英雄アイゼンハワー将軍であった。

米国の作家ジョン・ガンサーが書いた伝記によれば、「アイク」の愛称で親しまれた名将は、こうも語った。「軍人として戦争を体験したればこそ、戦争の残酷さ、無用さ、愚かしさをこの目で見たればこそ、私は戦争を憎む」。だから「軍人という仕事をこの世からなくすことを、目標とせよ」と若者らに訴えたのだ。

そんなアイクが戦後、米大統領となって目にしたのが、軍と産業が一体になった軍産複合体の怪物ぶりだった。この怪物のために膨らみ続ける国防費がいかに福祉や教育、そして科学を蝕(むしば)むか。彼は一九六一年の退任演説で米国民に語り掛けた。

「政府の莫大(ばくだい)な資金が絡むために、科学者はその関心を知的好奇心ではなく、政府との契約に向けるようになった」「軍産複合体が、自由と民主的プロセスを壊すことを許してはならない。」

日本政府は科学者が自由に使える資金を絞る一方で、軍事研究をさせるための予算をこれまでの数億円から百億円以上まで増やそうとしている。日本学術会議が、学問が軍事にからめ捕られるのではないかと危機感を持つのも当然のことだろう。

半世紀前にアイクが米国民に向け語った言葉の重みが今、日本で問われているのだ。
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