本の装丁

中日春秋 3/6

夏目漱石は本の装丁にこだわった作家である。「綺麗(きれい)な本が愉快だ」。それが高じて、「こゝろ」は「箱、表紙、見返し、扉及び奥附(おくづけ)の模様及び題字、朱印、検印ともに、悉(ことごと)く自分で考案して自分で描いた」と書いている。

「ジャケ買い」とは、どんな音楽か分からぬままレコードジャケットのデザインの良さだけで購入することだが、本にも当てはまる。本屋さんで、たまたま見かけた本の装丁がなんとなく気になり手に取った結果、大切な一冊になるという経験はどなたにもあるだろう。

良き本の装丁は単なるデザインを超え、内容が自然と浮かび上がってくる味わい深い顔をしているのかもしれぬ。漱石が装丁にこだわった理由がなんとなく分かる。

長年、本の装丁、雑誌の挿絵などで活躍されたグラフィックデザイナーの長友啓典さんが亡くなった。七十七歳。装丁した本は千冊を超えるそうだ。

長くコンビを組んだ作家の伊集院静さんが書いている。「トモさんの装丁を見ていると、そこにトモさんがにじみ出ている。哀(かな)しい作品にはトモさんの哀しみが、陽気な作品にはトモさんの悦(よろこ)びが伝わってくる」。作家や作品の思いを自分の心でデザインした人である。

本屋さんを巡回し、かかわった本が棚に差してあると、抜き出して平台に置いていたそうだ。背中だけでは不憫(ふびん)で、せっかくの良い顔を見せたかったのだろう。

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