2017年10月14日の記事 (1/2)

失敗した実験

凡語 10/14

 太陽と地球の距離で水素原子1個分という微小な時空のゆがみ、それが重力波だ。今年のノーベル物理学賞に観測チームの3氏が輝いたが、重力波望遠鏡の原理は19世紀後半の有名な「失敗した実験」が基になっている。

光を伝える宇宙空間は、目に見えない媒質で満たされていると当時考えられた。米国の物理学者マイケルソン(1852~1931年)は「エーテル」と名付けられた物質の実在を証明する実験を行った。

考案したマイケルソン干渉計は、一つの光を直交する2方向に分離し、同距離の鏡に跳ね返った光を合流させる。だがエーテルが存在するなら生じるはずの時間差は検出できなかった。

逆にエーテルが存在せず、光速度が不変であることの証明につながった。1907年米国初のノーベル物理学賞を受賞した。

現在の重力波望遠鏡は基本的にこの干渉計を改良し、数キロの長さに巨大化したものだ。将来、3基の人工衛星で数百キロに及ぶ干渉計を構成すれば、宇宙の始原に迫る観測が期待できる。

アインシュタインの一般相対性理論から約100年。重力波の観測もまた科学者が失敗の山を積み上げた。しかし失敗を全否定するのでなく、原因探求と修正の努力を続けたからこそ金字塔は打ち立てられた。科学の進歩から学ぶべき教訓は多い。

20171014163011f88.jpeg

日本をいま一度、選択する

春秋 10/14

 クリーニング店に出した洗濯物を長い間、取りに来ないケースが増えているそうだ。業界団体の調査では、約9割の店が「長期間放置品がある」と答えた。

一番古いものはどれくらい前に預かったのか。「3~5年未満」が23%で最も多く、「20~25年未満」は10%、「25年以上」放置が6%もあった。約7割の店が期限を切らずに保管しているが、劣化や保管場所に困っているという。

こちらは歴代内閣が「必ず」と約束しながら長期間放置し、困ったことに。借金で膨れ上がった財政の再建だ。国と地方の長期債務残高は1千兆円を超え、国内総生産(GDP)の約2倍に。うち国の借金は約900兆円で、税収の約15年分に当たる。

家計に例えると、月収50万円なのに、生活費に60万円使い、ローンの元利払いに20万円が必要。それで毎月30万円を新たに借りて暮らしている。借金が増え続けるわけだ。

今回の総選挙でも、有権者受けのいい政策が飛び交い、消費税増税は使途変更や凍結を、と。痛みを伴う財政再建策はほとんど聞かれない。子や孫に押し付ける負債が増えるほどに未来は劣化する。クリーニング業界は「お忘れではありませんか?」と書いたポスターを作った。選挙ポスターにも「お忘れではありませんか?」と書き加えたい。

「日本をいま一度、洗濯する」と言ったのは坂本龍馬。「日本をいま一度、選択する」ための政策を聞きたい。

…………………………

20171014162543c67.jpeg


原文は以下のとおり。(長い手紙なので抜粋です。)

是皆姦吏の夷人と内通いたし候ものニて候。右の姦吏などハよほど勢もこれあり、大勢ニて候へども、龍馬二三家の大名とやくそくをかたくし、同志をつのり、朝廷より先ヅ神州をたもつの大本をたて、夫より江戸の同志はたもと大名其余段と心を合セ、右申所の姦吏を一事に軍いたし打殺、日本を今一度せんたくいたし申候事ニいたすべくとの神願ニて候。此思付を大藩にもすこむる同意して、使者を内内下サルル事両度。然ニ龍馬すこしもつかへをもとめず。実に天下に人ぶつのなき事これを以てしるべく、なげくべし。

これを読むと、「朝廷から日本を守ろうとの呼びかけを行ってもらい、異国と内通する堕落した幕府の官吏を打ち殺すこと」が「洗濯すること」のようです。あまり過去にこのような事例は無いと思うので、個人的な考えですが、「洗濯する」とは「洗濯して昔のきれいな状態に戻す」と言う意味で使われているのではないでしょうか。「昔洗濯したことがあった⇒また汚くなった⇒もう一度洗濯する」ではなく、「昔はきれいだった⇒洗濯する⇒もう一度きれいにする」と言う感じ。

訳としては、「日本を洗濯して、もう一度きれいな国に戻したい」と言うことになるのかと思います。

モッタイナイキッチン(生ごみ減量)

有明抄 10/14

 福岡市の自宅で料理教室を開く桧山ひやまタミさんは、91歳の今も現役。「便利」「手間なし」をうたう食品があふれる時代に、家庭のご飯一食一食が家族の命をつなぐ営みであることを伝える。

教室の生徒がタミさんの台所で驚くのは生ごみの少なさだ。「だって捨てるところがないやろう。野菜は皮もおいしく食べられるし、卵の殻は細かく砕いて、鍋や水みず垢あかの掃除に使ったり、植木の肥やしにもなるよ」。戦中派の「もったいない」生活術を若い人に伝授する。自著『いのち愛しむ、人生キッチン』(文藝春秋)には知恵が詰まる。

食材の、捨ててしまいがちな部分を活用するレシピを投稿できるウェブサイト「モッタイナイキッチン」が人気という。生ごみを減らそうと、仙台市が9月に開設。工夫を凝らした投稿レシピは日に日に増えて64件に。

大根の葉を捨てずに使った「大根の葉炊き込みご飯」や、出汁だしを取った後のかつお節を再利用した「出汁がらdeかき揚げ」などの献立が並ぶ。楽しみながら、ごみ減量に取り組める仕掛けだ。ちなみに佐賀市だと、年間5万4千トンの家庭ごみのうち、約3割を占める生ごみ。家庭の協力が減量に直結する。

いただく側の人たちも食べ残しに心したい。「捨てる前にもう1回、何かに使えないか考えて、手を動かす」。タミさんの教えである。

…………………………

2017101416152239e.jpeg


「がんばらんでいいの」92歳料理研究家が贈る魔法の言葉

九州・博多で暮らす、92歳、現役の料理家。料理の技術だけではなく、季節の食材や使い心地のよい道具といった「ほんもの」の大切さを伝えるその料理教室は、教え子たちからひそかに「人生塾」と呼ばれている。そんな著者の教えを、温かな言葉を軸にまとめた本の売れ行きが好調だ。

「今は仕事も家事もがんばることを求められる時代で、上手く両立できずに悩む人も多いですよね。タミ先生は早くにご主人を亡くされ、戦後の厳しい時代にシングルマザーとして双子のお子さんを育てられた。そんな大変な思いをされた方が、悩みを相談した方に『がんばらんでいいの』と声をかけられる。ホッとしますよね。そういう、辛いことがあっても思い出すと元気になれる、お守りになるような先生の言葉を集めた本にしたかったんです」(担当編集者の馬塲智子さん)

教室には、著者の話を楽しみに50年近く通い続けている人、はたまた親子2代、3代で教わっている人もいるそう。著者の人徳は、文章からも伝わってくる。

「歳を重ねると何かと人付き合いも難しくなるものですが、先生の心はいつも開かれているんです。一人暮らしをされているお宅には、今でもいろいろな方が毎日のように訪ねて来られるとか。おしゃべりがあって美味しいご飯があると、温かい場所が生まれる。そういうのっていいなと、この本を通じて、あらためて感じました」(馬塲さん)

評者:前田 久

(週刊文春 2017.09.28号掲載)

内容紹介
タミ先生の言葉は「人生のお守り」です!

九州地方で活躍する92歳の現役料理家タミ先生の初の著書。
台所に立つ女性の心の拠りどころになるお話が一冊にまとまりました。
タミ塾の愛情レシピも収録。

◎◎タミ塾の50年の教えが詰まった人生の教科書◎◎

◆年を重ねても健やかに生活する術に触れたいとき……
1章 [大らかなれ] わたしの生活習慣、心とからだの養生

◆自然に寄りそった食の大事を思い返すとき……
2章 [賢くあれ] 自然とからだを結ぶ旬材、学び方と選び方

◆調理道具や調味料の知恵を知りたいとき……
3章 [健やかなれ] 五感に心地良い、基本の道具と調味料

◆子育てや家族のつながりに心を寄せたいとき……
4章 [やさしくあれ] 子ども・家族、命を思いやる家庭料理


迷いや悩みがあるとき、この本を開いてみてください。
ふと心に触れるタミ先生の「ほんとう」の言葉が
生きる力につながるお守りになるはずです--。

内容(「BOOK」データベースより)
九州地方で活躍する料理家タミ先生の初の著書。台所に立つ女性の心の拠りどころになるお話が一冊に。タミ塾の愛情レシピも収録。タミ塾の50年の教えが詰まった人生の教科書。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
桧山/タミ
1926年、福岡県生まれ。日本の料理研究家の草分けとして知られる故・江上トミ先生の愛弟子として戦前・戦後を通じて学ぶ。戦後、江上先生とヨーロッパ各国を巡った研修旅行を皮切りに、その後も折々に海外へと出向き、世界の料理の歴史や食材への見識を深める。39歳で独立後、52歳で現在の「檜山タミ料理塾」を開設。素材にこだわり、愛情と自然の恵みを大切にする心が息づいた、昔ながらの日本の家庭料理を教える。現在も「タミ塾」「檜山塾」の愛称で活動を続け、家庭料理とともに生活者としての知恵や心がけを塾生に伝える(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

メード・イン・ジャパン

20171014123657a7f.jpeg


東京・青山の交差点にあるホンダ本社ビルは、各階にベランダが設けられている。創業者の故本田宗一郎さんが命じた。

地震で窓ガラスが割れたとき、破片が落下して歩行者にけがをさせないように、と。ビルも道路から離れて建てられている。交差点の見通しを良くするためだという。人の命を預かる自動車は安全でなくてはならない。そのこだわりは社屋にも込められている。

町工場から始め、技術力で「世界のホンダ」に育てた創業者の思いは日本の「ものづくり」全般にも受け継がれた。安全を最優先した品質の高さは「メード・イン・ジャパン」の信頼を支えている、はずだが…。

自動車部品大手タカタの欠陥エアバッグ問題、三菱自動車のリコール隠しや燃費データ不正、その三菱を傘下に入れ、お手本になるはずだった日産自動車では新車完成検査を無資格の従業員が行っていた。

さらに、自動車各社に部品を供給している神戸製鋼所が、アルミニウム・銅製品の性能データを改ざんして出荷していたことが分かった。同社製品は新幹線や航空機、ロケット、防衛装備品にも使われている。日本ブランドの信頼は大きく傷ついた。

本田さんはある時、社員と握手しようとした。社員は手を出すのをためらった。油で汚れていたからだ。「いいんだよ。その油まみれの手がいいんだ」。本田さんが大切にしたものづくりの原点が忘れられてはいないか。

…………………………

201710141236584bf.jpeg

(福岡サービス工場: 福岡SF)
サービス工場では、宗一郎さんが工員に近づいて握手の手を出すと、自然に油まみれの手を出してしまう人がいた。彼が気づいて、油を拭こうとすると宗一郎さんが

「いや、いいんだよ。その油まみれの手がいいんだ。俺は油の匂いが大好きなんだよ。」

子規を演じる

2017101416005602f.jpeg

20171014160055c82.jpeg

2017101416005709f.jpeg

2017101416005608c.jpeg



地軸 10/14

 人気漫画「あしたのジョー」で、主人公のボクサー矢吹丈に立ちはだかるライバル力石徹。作者のちばてつやさんは、力石をうっかり大男に描いてしまった。

 ボクシングは階級制。体格が違いすぎる2人を対戦させるために「力石に過酷な減量を強いることになった」と振り返る。やせ細った力石は試合でジョーに勝つものの、直後に力尽きる。漫画の中の話ではあるが…。

 減量と言えば、ボクシング通としても知られる俳優、香川照之さんを思い出す。2009年から放送されたNHKドラマ「坂の上の雲」で、正岡子規の壮絶な最期を演じるため、5カ月で17キロも減量した。妹・律役の菅野美穂さんが演技で背中に触れ、浮き出た骨に「息をのんでしまった」という。

 約40年前に制作された南海放送のドラマ「わが兄はホトトギス」では、岸田森さんが自我を押し通す子規を「怪演」。現在坊っちゃん劇場で公開中のミュージカルでも新たな子規像が描かれている。

 減量に挑んだ動機を、香川さんは「僕の中に苦しさがないと子規の苦しみには追いつけない」と説明し、「役者冥利(みょうり)に尽きる」と話した。その鬼気迫る演技を通して、視聴者も子規のバイタリティーあふれる人生に思いをはせたのでは。

 今日は子規の生誕150年。晩年は病床でやせ衰えながらも、最期まで創作や原稿の執筆を続けた子規。後世、自分が劇中で描かれることなど、想像もしなかったに違いない。


…………………………

香川照之、「あしたのジョー」並みに15キロ減量

201710141609027de.jpeg

役作りで15キロ減量した香川照之

 俳優・香川照之らが16日(金)、東京・調布のスタジオでNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』の2010年秋放送予定の主人公・正岡子規の最期のシーンなどを撮影。5ヶ月で15キロ以上の減量を行った正岡子規役の香川は苦悩の日々について、漫画『あしたのジョー』を引き合いに出し「2階級ぐらい体重が落ちた」と話し、妹・律役の菅野美穂も「背中をさする演技で骨が浮いてることがわかり、胸のつまる思いでした」と感想を語った。

 台本を読んで「苦しさを経験しないと子規に追いつけない」と、並々ならぬ思いで撮影に臨んだという香川は、昨夏の松山ロケ以降、食事制限やランニングなどをして減量を実行。「普通のドラマや映画と違い、長いスパンでやれるからこの役作りができた。まさに役者冥利に尽きますね」と時折、目を潤ませながら語り、最後には同郷の海軍軍人役を演じ同世代の本木雅弘に「月並みですが、頑張ってくださいね」と静かにエールを送った。





認知症

滴一滴 10/14

「認知症というと、症状が相当進んだ人をどう支えるかっていう話ばかり。でも、元気で働ける期間が長くあることも忘れないでほしい」。先月、笠岡市で開かれたシンポジウムで丹野智文さん(43)の発言にハッとさせられた。

丹野さんは仙台市の自動車販売会社に勤める2児の父だ。39歳の時、客の顔が覚えられなくなり、若年性アルツハイマー病と診断された。

最初は不安と恐怖ばかりだった。インターネットで調べると「2年で寝たきりになる」など悪い情報ばかり。相談に行った市役所では「40歳未満は介護保険が使えない」と言われて終わった。


転機は、親身に寄り添ってくれる家族の会や元気な当事者との出会いだ。認知症を悔やむのではなく、認知症と共に生きようと気持ちを切り替えた。病気をオープンにし、周りのサポートも受けやすくなった。


認知症は周囲の理解と適切な支援があれば以前と変わらぬ暮らしもできる。ただ、「発症したら何もできなくなる」との偏見は根強く、これまでの施策も介護の負担軽減など支える側に偏りがちだった。当事者の生の声が社会に十分伝わってこなかった面もあろう。

国は認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン=2015年)で「当事者視点の重視」を打ち出した。共に生きるために何ができるか。私たちの意識も変えたい。

健康のありがたさ

水鉄砲 10/14

 子どもの頃から病気らしい病気にかかったことがなく、健康だけが取りえと信じていたが、50代後半になって急にがたが目立ち始めた。運動不足や不規則な食事の影響だろう。いわば手入れもせずに車を乗っているのと同じ。故障するのは当たり前かもしれない。

 3カ月前から右肩が上がらない。俗にいう「五十肩」である。相談した友人や先輩から「しばらくすると自然に治った」という話を聞いて放置していたら、夏の終わりに症状が悪化した。専門医に診てもらうと「もっと早く来ていれば…。元に戻るには、相当時間がかかる」と宣告された。それでも「必ず治る」と励まされ、リハビリに取り組んでいる。

 続いて健康診断で腎臓に結石が見つかり、先日、田辺市内の病院で除去手術を受けた。病室からベッドに寝たまま、テレビドラマの一場面のように手術室へ運ばれていく。「これから何が起こるのだろうか」。初めての経験に少しの緊張とどこか人ごとのような不思議な感覚。やがて麻酔が効いて意識が遠のき、目が覚めた時は手術が終わって病室に戻る途中だった。

 その夜は、酸素マスクをつけたまま一睡もできず、術後も2日ほどは満足に動けなかった。情けない思いをしたが、適切な処置のおかげで予定通り1週間で退院できた。

 いまは何事もなかったように働いている。でも、二つの病気で健康のありがたさが身にしみた。もっと体を大事にしよう。

キレる

大自在 10/14

 「キレる」子どもや大人の問題が社会的に取り上げられるようになって、もうずいぶんたつ。突然キレて暴力を振るうなど、感情をコントロールできない子どもが増えていることを受け、文部科学省が動きだしたのは12年前だ。

 一時的に怒りなどを引き起こす心の動き「情動」を科学的に解き明かすため専門家が集められた。子どもを取り巻く環境変化が発達に及ぼす影響を脳科学の視点で探る研究も始まった。

 当時、警察庁の発表によれば、子どもだけでなく、大人による暴行の増加も明らかになった。「ささいなことでキレる大人が増えているのではないか」とは、同庁の指摘だった。脳科学者らの研究成果は分からないが、日々の事件をたどれば、キレる大人も子どもも依然後を絶たないようだ。

 神奈川県内の東名高速で6月、静岡市の萩山嘉久さん(45)と妻友香さん(39)が死亡し、娘2人が負傷した事故はキレた男の信じられない行為が招いた可能性が高まった。パーキングエリアの駐車位置を巡って注意され、逆恨みした石橋和歩容疑者(25)=福岡県中間市=が進路妨害し、事故を誘発したとして逮捕された。

 石橋容疑者は東名で萩山さんの車を追い掛け、揚げ句追い越し車線上で無理やり停止させたとみられる。高速道路で停止させたらどうなるか、キレた男にはそれすら思い至らなかったのか。

 石橋容疑者は事故の約1カ月前にも3件の同様の進路妨害行為をしていたという。悪質極まる。「父と母を返してほしい」。目の前で両親を亡くした高1長女の声はあまりに切ない。

ぜひ手書きで

越山若水 10/14

会議中にペンでメモを取るか、それともパソコンなど電子媒体でタイプ入力するか。果たしてどっちが効果的だろう。スマートさではパソコンの方に軍配が上がる。

脳研究者の池谷裕二さんがある雑誌で問題提起した話である。大学の講義でも最近、キーボードを打ち込む学生がかなり増え、眉をひそめる教授もいるという。

学問とは奥行きが深いもので、米プリンストン大の研究者らが行った実験がある。講義内容のメモを手書きする派とタイプする派、両者の成績を比較してみると…。

対象は大学生約320人。複数の講義映像を見せ、自由にメモを取ってもらった。すると手書き派の方が軒並み好成績だったという。速度は断然タイプが有利、メモの分量も手書きの2倍以上あった。

実は、手書きの不便さがミソだという。講義に遅れないため、手書きは要点を咀嚼(そしゃく)しながらメモを取る。一方、言葉をそのまま転写できるタイプには要約する過程がない。

衆院選の論戦の陰に隠れているが、森友・加計学園問題も忘れてはいけない。矢面に立った安倍晋三首相も「公文書の管理は見直したい」と反省する。

これまで政府関係者の答弁は「記録がない」「記憶がない」の一点張り。かえって国民の疑念が深まった。大事な政策判断では必ずメモを取る。しかも記憶にしっかりとどめるよう、ぜひ手書きでお願いしたい。

…………………………

池谷裕二の名言


池谷裕二のプロフィール

池谷裕二、いけがや・ゆうじ。日本の薬学博士、脳科学者。専門は薬理学、神経科学。海馬、大脳皮質を研究する。静岡県生まれ。東京大学大学院薬学系研究科で薬学博士号を取得。コロンビア大学客員研究員を経て、東京大学大学院薬学系研究科講師。脳の研究を一般にわかりやすく紹介する著書を数多く出版している。主な著書に『進化しすぎた脳』『海馬』『単純な脳、複雑な「私」』など


いまの状況はずっと続くのではなく、いずれ終わると考えておくと、いざ変化が訪れたときに、固執することがなくなります。

池谷裕二の名言|適応力を上げるには
発想は料理のようなものです。料理は未知の食材をつくり出すものではなく、すでにある食材を巧みに組み合わせるもの。発想するということはそれに近いのです。

池谷裕二の名言|発想は料理のようなもの
大人に適しているのは、自分の体験を情報と関連付けて覚える経験記憶です。最も簡単なのは人に話すことでしょう。単独では覚えにくい知識も、あのときあの人にこう説明したという経験と結びつければ、比較的容易に覚えられると思います。

池谷裕二の名言・格言|大人に適した記憶方法
入力の仕方は関係なく、出力する機会が多い方が記憶は定着すると考えられます。人に話すという行為は、まさに出力そのものです。覚えたい知識があれば、資料を何度も読み返すより、それを職場で話してみるとよいでしょう。その方が、ずっと記憶として定着します。

池谷裕二の名言・格言|記憶は入力よりも出力する機会が多いと定着する
直感のもとになるのは「方法記憶」です。自転車に乗るときは体中の筋肉を使いますが、あまりに動きが複雑で、それを意識するのは困難です。しかし、実際は方法記憶として無意識の脳が記憶しているため、筋肉の動きを意識しなくても自転車に乗れます。直感もこれと同じで、意識はできなくても、無意識の脳が膨大な処理をして答えを導いてくれるのです。直感は、経験を積めば積むほど精度が増します。なんとなく浮かんだアイデアを上手く説明できずに窮することもあるかもしれませんが、キャリアを積んだビジネスマンなら選択に自信を持つべきです。

池谷裕二の名言・格言|直感の正体と、精度の高め方
理由を説明できない直感とは異なり、思いついたあとに理由が説明できる考えを閃きといいます。閃きを生むには睡眠中の無意識の脳に考えてもらうのが最も効果的だと私は考えています。夜眠る前には、情報をインプットすると同時に、課題を再確認することです。私は毎日これを実行しています。

池谷裕二の名言・格言|アイデアを閃くために就寝前にやるべき2つのこと
就寝前は、脳に睡眠中の課題を与える時間帯です。眠る直前まで仕事の資料や本などに目を通して、無意識の脳に仕事をさせるための情報を入力するとよいでしょう。

池谷裕二の名言・格言|眠っているときに無意識の脳に仕事させるため、就寝前は情報を入力する
早く勉強の成果を出そうと最初から高度なところに挑戦する人がいますが、あれは逆効果です。脳科学者がサルに複雑な行動を学習させるとき、すべてを一度に教えることはありません。「届かない位置にあるエサを長い棒を使って取る」という行動を覚えさせる場合は、まず「棒を使えばエサが取れる」ことを学習させてから、「短い棒より長い棒の方が届きやすい」ことを教えます。基礎から徐々に難易度をあげていく方法は、一度に複雑なことを覚えるより最終的に早く多くのことを習得できることがわかっています。

池谷裕二の名言・格言|基礎から徐々に難易度をあげていく方が早く勉強できる
もの覚えが悪くなったことを、脳の衰えのせいにするのは間違いです。年齢とともに新しいことを記憶しづらくなっているのは、たんに年不相応な記憶のやり方をしていることが原因でしょう。中学生ぐらいまでは知識記憶が優勢で、丸暗記をしてもどんどん頭に入ります。しかし、それ以上の年齢になると、経験記憶が上回り、丸暗記が難しくなります。にもかかわらず若いころと同じ記憶のやり方をしているから、新しいことが覚えられないのです。

池谷裕二の名言・格言|もの覚えが悪くなるのは脳のせいではなく、適した記憶方法が変わるため
忘れていたはずの記憶も、復習を繰り返すことで定着率が上がります。昔からよく言われることですが、やはり勉強はコツコツが基本です。短期的に結果を求めず、長い目で考えることがモチベーション維持につながるはずです。

池谷裕二の名言・格言|勉強は短期ではなく長期でやる
すぐに学習の成果が出ないからといって、次のステップに進むのも厳禁です。記憶の半分は、覚えてから4時間以内に消えてしまいます。そこに追加して新しいことを覚えようとすると、記憶の干渉という現象が起こり、前の記憶はさらに忘れやすくなり、新しいことも記憶しづらくなります。焦って次に進むより、まずは復習です。

池谷裕二の名言・格言|学習の成果が出ないときは、次に進むよりも復習が効果的
欲張りな学習はむしろ非効率です。焦らず基礎から順に学んでいった方が、じつはずっと早く目標を達成できるのです。たしかに最初に基礎を習得するのに時間はかかりますが、基礎を覚えると、その理論を応用して次の段階を容易に覚えられるようになります。

池谷裕二の名言・格言|基礎を時間をかけて覚えると、次の段階を容易に覚えられるようになる
ルーティン化は、慌ただしい朝を過ごす人ほど効果的です。脳には「ワーキングメモリ」という短期的な記憶を処理するメモリがあります。ワーキングメモリは意外に容量が少なく、一度に意識できることは7つ程度が限界だといわれています。一方、無意識の記憶に制限はなく、無意識の領域に仕事をさせれば、より多くのことが同時並行で処理できます。この性質を利用しないのはもったいない。毎日やるようなこまごまとした仕事は、ルーティン化することで脳の無意識に任せてしまいましょう。

池谷裕二の名言・格言|毎日やるこまごまとした仕事はルーティン化する
仕事や勉強で期待通りの成果が出ないと、努力を続けることが虚しくなるものです。しかし、そこで諦めてしまうと成長も止まります。思うような成果が上がらない人は、まず勉強法を見直すことから始めてみましょう。

池谷裕二の名言・格言|成果が出ないときは勉強法を見直してみる
朝出社して、今日はどの作業から取りかかろうかと考えているようでは、仕事は思うようにはかどりません。大切なのは、意識に立ちあがらないレベルまで習慣化してしまうことです。たとえば「まずメールチェックをして、次は予定表を書く」というように、やる作業を固定して毎日繰り返せば、いずれ苦も無くこなせるようになります。

池谷裕二の名言・格言|朝一でやる作業を固定してルーティン化する
受験生のころ、「必勝合格」と壁に貼って自分を励ましていた人はいないでしょうか。泥臭い印象があるのか、最近は以前ほど見かけなくなった気がします。しかし、精神論だといって馬鹿にしてはいけません。紙に書いて自分にハッパをかけるのは実は理にかなったやり方なのです。無意識に脳にメッセージが届き、やる気をかきたててくれるのです。

池谷裕二の名言・格言|目標を壁に貼るのは理にかなっている
ルーティン化には、無意識の記憶を司る線条体や小脳が関与していると考えられます。毎日の習慣にすれば、朝のこまごまとした身支度が苦にならなくなるのも、無意識が勝手にやってくれるからです。ルーティン化は、面倒なことをやるのに非常に強力な方法なのです。

池谷裕二の名言・格言|面倒なことをやるのにルーティン化が力になる
仕事に集中したいが、どうにも気が散って進まないという経験は誰しもあるものです。ただ、動物としては、むしろ集中力が高い方が不自然な状態だといえます。野生の動物は、常に周囲に気を配って危険を察知します。人間も同じで、何かに集中して道を歩いていたら、事故に遭う確率が高まります。この脳の性質に抗って集中力を高めるには、よそ見できないように意識して強制的に視野を狭めるしかありません。

池谷裕二の名言・格言|集中力を高めるには、よそ見できないよう強制的に視野を狭める
子供のころ、毎朝、歯を磨くことを面倒に感じたことがある人は多いと思います。しかし、大人になって歯磨きを嫌がる人はほとんどいません。むしろ、磨かないと気持ち悪いという人の方が多いはずです。これは、歯磨きという行為がルーティンワーク化されたからです。

池谷裕二の名言・格言|ルーティンワーク化すると面倒なことでも習慣になる
眠っているときは直前にやっていたことが最も再現されやすいので、僕は寝る前にもう一仕事するようにしています。眠っている間に脳が勝手に動いてくれることを期待しているんですよ。

池谷裕二の名言・格言|寝る前にもう一仕事する
眠る前に次の日の仕事をリストアップしておくことで、寝ている間に情報が整理、固定されると考えていいでしょう。浅い眠りのときに、脳が無意識のうちに情報として保存するのだと思います。

池谷裕二の名言・格言|次の日の仕事のリストアップは寝る前に行う
強く念じれば、その通りに体が動くことをイデオモーター(観念運動)と呼んでいます。これは無意識の作用。夢や目標を手帳に書き出し、机の前に貼って眺めると、脳が自然と準備を始める。そういうことも十分考えられるのではないでしょうか。

池谷裕二の名言・格言|強く念じればその通りに体が動く
脳のワーキングメモリーは7つくらいなので、やるべきことが8つ以上あると、脳が全部を覚えられずに、「ものすごく忙しい」と勘違いをはじめるのではないでしょうか。でもよく考えると、8つ程度なら大したことはない。書き出すことで、それがわかって安心します。また、情報も整理され、気分が楽になるのだと思います。

池谷裕二の名言・格言|やることを書き出すと気分が楽になる
いいアイデアが思いつくのは、パソコンの画面をにらんでいる時ではありません。仕事の合間に、ちょっと席を立ったり、トイレに行った瞬間、フッとひらめくことが多い。歩く、場所を変える、ということが重要でそういうときには、脳の海馬周辺からシータ波という脳波が出ると考えられます。シータ波が強くなるのは、外部の情報を収集しようという意識的検索モードのときなんです。

池谷裕二の名言・格言|いいアイデアは歩いたり場所を変えたりするときに思いつく
人と会うことで揺らぎが生まれ、脳が刺激される。そもそも人間は社会性の強い動物です。初対面の会話では、声や表情などいろんな情報が入るため、脳がより刺激されるのではないでしょうか。

池谷裕二の名言・格言|人と会うことは脳に刺激を与える
空腹のときに、海馬をはじめとした脳が活性化するため、仕事効率が高まるのではないでしょうか。自然界を見ても、昼間活動する動物は、朝と夕方に活発に動き、満腹になった午後はのんびいりとしている。ライオンだって朝と夕方しか狩りをしない。人間も同じだと思いますよ。

池谷裕二の名言・格言|空腹のときの方が仕事効率が高まる
ルーティンワーク化するということは、無意識化するということ。無意識の記憶を司る線条体が関与していると考えられます。繰り返すことで体が覚える。無意識だから苦にならない。そういう状態を一般的には「集中している」と呼んでいるのです。集中しているときは時間を忘れて没頭しているでしょう?こういうときの脳は、動物的なシンプルな使い方をしていて、大脳皮質に前頭葉が麻痺している状態だと考えられます。時間感覚だけでなく、おそらく、喜怒哀楽や損得勘定も消えているのではないでしょうか。

池谷裕二の名言・格言|ルーティンワーク化=仕事の無意識化
人間は脳から変わらない。体からしか変えられないと私は考えます。脳は体に引っ張られる形で活性化される。作業興奮のメカニズムはまさにそれです。

池谷裕二の名言・格言|脳の動きは、体の動きに左右される
人間は「エラー&コレクト」、すなわち自分のクセや欠点に気付き、修正しながら成長することで社会に適応してゆきます。

池谷裕二の名言・格言|自分の癖や欠点を修正しながら成長する
原稿や企画書を書かなければならないのに、集中できない。やる気が出ない。そんなときには、ワープロの前で指も動かさず呻吟するのではなく、まずはペンを持ってとにかく書いてみるのも一案です。そうすることで、脳が次第に活性化し、のめり込んでゆくということがあるのです。これを作業興奮といいます。興奮とは脳の神経細胞が活性化するという意味です。
【覚書き|呻吟、しんぎん。苦しみうめくこと】

池谷裕二の名言・格言|文章を書くのに詰まったら、ペンで書く
指先の運動は脳を活性化させることが知られています。バイオリニストやピアニストは指を動かす脳領域が普通の人に比べて広いのですが、これは生まれつき演奏家の脳領域が普通の人に比べて広いのではなく、演奏や練習を続けたことで脳領域が広くなったと考えられます。つまり指を動かすことで、指を動かす脳領域が活性化されたわけです。

池谷裕二の名言・格言|指先の運動は脳を活性化させる
重要なことは「別にストレスを感じても構わないんだ」と思うことです。普段からストレスを怖いものと捉えていると、実際にストレスを受けたときに過剰反応を起こします。それよりも「ストレスはごく当たり前のもの。もしストレスを感じたとしても、私にはストレス解消法があるから大丈夫」と楽観している方が、より充実した毎日を過ごすことができるでしょう。

池谷裕二の名言|ストレスは怖いものではないと捉えることの大切さ
ストレスがないとモチベーションは上がらないし、成長もありません。私たちはストレスや不安を感じることによって、毎日の生活に上手く対応することを可能にしているのです。

池谷裕二の名言|ストレスがないとモチベーションは上がらないし、成長もない
ストレスとは「主観的な負荷」を指す言葉で、人にストレスを与える環境的な刺激はストレッサと呼びます。外的な要因であるストレッサに対して個人が感じる重圧がストレスです。したがって、同じストレッサに対しても、それにストレスを感じるかどうかは、個人によって差があるのです。

池谷裕二の名言|同じことに対してストレスを感じるかどうかは個人差がある
ストレス対処を担当するのは「海馬」という脳の役割です。海馬は恐怖を記憶しますが、慣れることでその恐怖体験の上に「怖くない」という別の記憶を上書きし、そのストレッサ(ストレスをもたらす外的要因)に対する耐性をつくります。その結果、ストレスに打ち勝つことができるようになります。

池谷裕二の名言|ストレスに打ち勝つには
自分はストレスに弱いと感じている人は、普段から「なるべくストレスになることは避けよう」という心がけているため、無意識のうちに自己ケアができていることが多いものです。そのため、過剰なストレスを感じる前に対処ができます。

池谷裕二の名言|自分はストレスに弱いと感じている人は、ストレスに対処できる
毎日を悲観的に過ごせというつもりはありませんが、このくらい悪いことが起きるかもしれないと、頭の中でシミュレーションをしておくと、実際に不測の事態が起こった際に感じるストレスを軽減できます。これは準備された心、「プリぺアド・マインド」といいますが、このような予測を心のどこかに持っておくことは必要でしょう。

池谷裕二の名言|不測の事態を頭の中でシミュレーションすることの重要性
スポーツで身体を動かすことがストレスを軽減するということもあるのですが、それだけではありません。「運動すればストレスが軽くなる」と自分で思い込んでいることこそ大きな意味があります。自分はこれをすれば気持ちが楽になると信じて、ストレスを感じたときの逃げ道を用意しておくことで、実際にストレスホルモンの上昇は抑えられます。

池谷裕二の名言|身体を動かすより、身体を動かすことでストレスが軽くなると思い込むことが大切
ストレスというと、条件反射的に「悪いもの」「排除すべきもの」と思ってしまう人がほとんどです。しかし、ストレスがまったくない状態では、人は学習できないし、成長もあり得ません。過剰なストレスは好ましくありませんが、日常的に生じるストレスならば、それと向き合うことが生きるエネルギー源になるのです。

池谷裕二の名言|日常的に生じるストレスは生きるエネルギー源になる
人は個性によって縛られた思考しかできません。他の人とのコンビネーションがあると、発想にダイナミックスが生まれるのです。

池谷裕二の名言|発想するときに大切なこと
私の場合は、研究室の学生に「先生のアイデアはつまらない」とか「先生のアイデアは間違っている」とどんどん否定してもらうようにしていますし、こうした意見をお互いに言い合おうといつも言っています。もちろん、頭から否定するのではなく、「それは面白い。でもこういうふうにも考えられないか?」と互いに言い合うのです。こうして脳が2つ、3つと合わさると、1+1が2になるのではなく、それ以上の発想が生まれてくるのが面白いところです。

池谷裕二の名言|人と意見を言い合うとアイデアは膨らむ
所詮、自分の脳から出てくるアイデアなんてタカが知れています。私たちは自分がさまざまな考え方ができると勘違いしていますが、実は、人間の思考は想像以上にワンパターンです。しかも、長く生きれば生きるほどワンパターンになっていきます。ですから、創造的な発想をしようと思うなら、他人と脳を合わせることです。

池谷裕二の名言|創造的な発想をしようと思うなら、他人と脳を合わせることが必須
あまりに突拍子もない発想はダメ。拒絶されてしまう。人間の文化背景には必ず受け入れ可能な範囲があるのです。これまでにあったアイデアとはちょっと変わっていて、「ああ、こういう手もあったか」と思われるくらいがちょうどいい。

池谷裕二の名言|アイデアは「ああ、こういう手もあったか」と思われるくらいがちょうどいい
たくさんある材料をランダムに組み合わせても、良いアイデアが生まれるわけではありません。料理で言えば、組み合わせる素材がたくさんあったほうが新しいメニューは作りやすいですが、しかし、いかに創作料理といえども、絶対に合わない組み合わせはあります。逆に、まだ試したことはないけれども、「経験上、これとこれとは合いそうだ」という目星をつけることもできます。ですから、経験によって料理が上手になるように、訓練によってひらめきやアイデアの発想もうまくなる側面があります。

池谷裕二の名言|経験によって料理が上手になるように、訓練によってひらめきやアイデアの発想もうまくなる
人間の発想は記憶の間違いから生まれます。発想というのは記憶の組み合わせの妙だと言えます。

池谷裕二の名言|発想というのは記憶の組み合わせの妙
適応能力の高い人にこそ、私は素質を認めます。

池谷裕二の名言|適応能力の高い人にこそ、私は素質を認めます。
実は、正確な記憶は、脳にとって負担があまり大きくありません。それに比べて、間違って思い出すというのはとても難しいことです。コンピュータをイメージすればわかりやすいでしょう。データを記録し、必要に応じて取り出すのは、当たり前のようにできます。しかし、「ときどき勘違いして不正確なアウトプットをする」ということをコンピュータにやらせようとすれば、かなり複雑なプログラムを書かなければなりません。ですから、人間の脳がここまで大きくなったのは、記憶を勘違いする能力を発達させることと表裏一体だったと言えるでしょう。

池谷裕二の名言|正確な記憶は脳にとって負担があまり大きくない
閃くためには、知識を入力することは必須だとしても、そのあとは覚えたことをしばらく寝かせた方がいい。覚えた直後の記憶は鮮明すぎます。時間がたつにつれ記憶の内容がだんだん曖昧になっていきます。そうすると、他の記憶とブレンドしやすくなる。

池谷裕二の名言|閃くためには覚えた知識を寝かせることが大切
人間は、記憶の内容が似ていたり、記憶した時期が近かったりすると、Aという記憶とBという記憶を間違えたり、AとBが混ざったりして、不正確に思い出すことがあります。こうして記憶が曖昧になって組み合わされることによってさまざまなアイデアが生まれるのが創造性というものの正体です。そのわかりやすい例が、架空のストーリーであったり、芸術作品だったりするわけです。

池谷裕二の名言|創造性は記憶の曖昧さから
人に何かを教えるときには2つの方法があります。答えを教えてしまうのがひとつの方法。もうひとつは、答えを悟らせる方法です。社会に出てからは、相手の顔色をうかがったり、情報を分析して解決策を考えたりといった、自分で悟らなければいけない場面のほうが圧倒的に多い。しかし、教育の場面では答えを教える方法ばかりが行なわれてしまうのは、悟らせる教育には技術がいるからです。

池谷裕二の名言|悟らせる教育には技術がいる
多くの学生を指導していて感じるのは、最初からプレゼンが上手い人というのは、相手の立場に立てる人である、ということです。

池谷裕二の名言|プレゼンが上手な人の特徴
研究者にはプレゼンテーション能力が必須です。そもそも研究成果を学会で発表するのにもプレゼン能力が必須ですし、研究費の獲得のためにもプレゼン能力が必要になる。

池谷裕二の名言|研究者にはプレゼンテーション能力が必須
注意しなくてはいけないのは、人によって違う、遺伝的に決まってくる性格もあるということ。自分がある方法でうまくいったからといって部下にも同じやり方を押し付けるのは独り善がりでしかありません。

池谷裕二の名言|自分が上手くいった方法でも、他人に合うかどうかはわからない
おそらく、平社員がいきなり社長の仕事を与えられたら耐えられないでしょう。でも、徐々に出世していって、失敗しながら徐々に責任が増していくから、社長になったときにはそのストレスに耐えられるようになっている。ストレス耐性がつくというのはそういうことだと思います。

池谷裕二の名言|ストレス耐性を付けるには
ストレス耐性についても、後天的に身につけられる面があります。これは動物実験ですが、継続的に小さなストレスを与えていると、あるとき大きなストレスが来ても耐えられることがわかっています。

池谷裕二の名言|小さなストレスを経験することで、大きなストレスに耐えられる
本質的に自分を変えられるかどうかは、はなはだ疑問です。でも、「変わるぞ」「頑張るぞ」と思って生きるほうが、滑稽かもしれないけれど、良い生き方ではないでしょうか。

池谷裕二の名言|「変わるぞ」「頑張るぞ」と思って生きるほうが、滑稽かもしれないけれど、良い生き方ではないでしょうか
現在では、遺伝で決まることと後天的に決まることは半々くらいだと言われています。半分も変えられる、というのはすごいことです。そう考えると、遺伝子で決まっている半分に目を向けて残念がるよりも、自分を変えるための脳を持っていることに目を向けて期待するほうが、はるかに健全だと私は思います。と同時に、私の英語のように、遺伝的にどうしても苦手なことは、諦めることでラクになる部分もあります。

池谷裕二の名言|変えられる部分に目を向けることが大切
私たちはなぜこんなに大きな脳を持っているのか。それは、経験や学習によって自分を変えていくためです。遺伝で決まっていることだけで生きていくならカエルやハエと変わりません。遺伝で決まっているデフォルトからどれだけ乖離できるか、どれだけ羽ばたくことができるか。そのために脳があるのです。

池谷裕二の名言|人が大きな脳を持つ理由
自分の適性がわからないという人もいるかもしれませんが、今まで生きているのですから、「けっこう逆境に強いな」とか「本番に弱いタイプだな」といったことは、なんとなくわかるはずです。周りの人に聞いてもいいでしょう。

池谷裕二の名言|自分の適性を知るには
私たちの個性は単純ではなく、千差万別です。共通の成功ルールはありません。ある人にとっては良い方法も、別の人がやれば逆効果かもしれない。自分に本当は何が向いているのかをきちんと考えることが重要です。

池谷裕二の名言|共通の成功ルールはない
一般に、豊富な知識や経験があると、それが「殻」をつくってしまって発想の邪魔をします。

池谷裕二の名言|豊富な知識や経験の短所
座学と現場主義ではどちらがいいか、といった議論がありますね。これについても、脳の観点からは、どちらがいいとは言えません。人によって、きちんと段階を踏んで勉強したい人もいれば、行き当たりばったりで挑戦して成功する人もいますから。

池谷裕二の名言|人によって適した学び方がある
富士山をイメージしてもらうとわかりやすいのですが、高くて美しい山は、一点の噴火口から噴き上げることでできています。そして、高い山は必ず裾野が広い。一点の能力を高めることで、その周辺の能力も付随して上がることを、専門用語で「学習能力の転移」と呼びます。

池谷裕二の名言|高い山は必ず裾野が広い
面白いのは、熱中して、ある一点を徹底的に掘り下げると、その周辺の能力まで高まっていくことです。特定の能力を高めると、それに関連した周辺の分野の問題に遭遇したときに、なぜか正しい答えがいきなりわかってしまうことがあります。それを、人は直感力と呼ぶわけです。「一芸は多芸に通ず」と言われるのもこれです。

池谷裕二の名言|一芸を徹底的に掘り下げると周辺の能力まで高まっていく
知識や経験を身につけるときに「いつでも通用するわけではない」という保留を付けること、必要なときにほんの少しだけ常識を外れることが大事だと思います。

池谷裕二の名言|知識や経験を身につけるときに考えるべきこと
いわゆる理系と文系に関しては、その分け方からして疑問が持たれています。東大が「文科○類」「理科○類」という分け方で入試を行なっていることも批判されているくらいです。まして、理系と文系で脳が違うかというと、なおさら疑問ですね。

池谷裕二の名言|理系と文系で脳が違うかというと疑問
マンネリ化はよくないと思われがちですが、じつは悪い面だけでもありません。マンネリ化とは、一方で仕事が効率的に進んでいることの表われです。仕事に不慣れだった頃は、苦労や失敗が絶えなかったかもしれませんが、慣れてくると問題は減ってきます。それを世間ではマンネリ化しているというのです。もしマンネリ化がなかったら、目に映るものすべてが新鮮で、驚きの連続でしょう。それでは仕事が進みません。マンネリ化とは、一度経験したことに対しては「慣れ」というメカニズムで対処することで、仕事の効率化を図る重要な機能なのです。

池谷裕二の名言|マンネリ化の良い面
一年前は苦労や失敗の連続だったのに、いまではスムーズに仕事ができるようになったことに気づけば、「自分も成長したな」とうれしくなります。しかし残念なことに、一年前の自分と比べようにも、一年前の自分の状態を覚えていない人が多いのです。自分の成長を確認するためにも、ブログなどに日々の出来事や失敗などを記しておくとよいと思います。ちなみに私は、非公開のブログで日々の仕事内容を記録して、ときどき読み返しています。

池谷裕二の名言|自分の成長を確認するためにも、日々の出来事や失敗を記憶しておくことが大切
「自分はモチベーションを高く保つことができない」と劣等感を感じている人もいるかもしれません。しかし、私が伝えたいのは、モチベーションだけがすべてではない、ということです。ルーチン化をうまく取り入れたり、身体がやる気におよぼす影響を活用するなどして、自分に合った方法で仕事に取り組んでほしいと思います。

池谷裕二の名言|モチベーションだけがすべてではない
私も、仕事に関しては盲目的です。仕事は好きですし、時間があれば仕事をしています。そもそも研究者とは、多少はバカにならないと務まらない職業かもしれません。

池谷裕二の名言|研究者とは、多少はバカにならないと務まらない職業
何かに夢中になっているとき、脳内のテグメンタという領域が活発に活動します。この領域は快感を生み出す場所であり、盲目的な熱中力を発揮します。これは恋愛状態と同じであり、恋愛中の人はあらゆることを犠牲にしてでも愛を捧げようとします。平常だったらできないことでもやってしまいます。恋愛する盲目性も、仕事に打ち込む盲目性も、どちらもある程度バカになることで、ほかのことを考えられなくして、夢を追う原動力を生み出しているといえます。

池谷裕二の名言|夢を追うためにある程度バカになることが大切
ご褒美というと、多くの人は好きなものを買ったり、おいしい食事をするなど、具体的なメリットが生まれることを想定するでしょう。しかし、それだけでなく、いったんマイナスに下がった状態を平常に回復するのも立派なご褒美になります。嫌な仕事をしなくてはならないときは、その嫌な仕事から解放される自分を強くイメージして、自分の背中を押してあげるのもひとつの方法だと思います。

池谷裕二の名言|嫌な仕事をしなくてはいけないときの対処法
仕事から逃げていると、逃げようとする自分の状態を感知して、脳は「自分はこの仕事がよほど嫌なんだ」と判断し、その結果、モチベーションはますます下がります。たとえ気分が乗らなくても、逃げ癖をつけるのはよくないですね。

池谷裕二の名言|気分が乗らなくても逃げ癖をつけないことの大切さ
箸を横にして歯でかんだ被験者と、箸を縦にして唇ではさんだ被験者に、同じマンガを読んでもらい、マンガの面白さを点数で評価してもらうという実験があります。結果は、箸を横にしてくわえた被験者のほうが高得点になります。つまりどういうことかというと、箸を横にくわえると、表情筋の使い方が笑顔と似ます。決して笑っているわけではありませんが、笑顔に似た状態を強制的につくることになるのです。身体の部位を動かすとき、脳は「この部位を動かせ」という指令を運動神経に出すだけでなく、身体中に張り巡らされた感覚神経を通して身体の状態をモニターしています。表情筋の使い方が笑顔と似た状態になっていること、そしてマンガを読んでいるという情報をキャッチし、「笑顔」+「マンガ」=「マンガは面白い」という推測を導き出したというわけです。

池谷裕二の名言|表情筋の状態を脳はモニターしている
自分の期待は低かったのに、飛び込んでみたら意外に楽しかったり、スムーズに物事が進んだと感じたら、これはある意味で「ご褒美」です。人はできるだけ多くのご褒美を得ようと行動するので、ご褒美が重なれば、次第にその行動が自分の癖やスタイルになっていきます。その仕事を嫌だと思う気持ちは変わらないのですが、やれば何とかなることを学習していきます。これを自己啓発本では「成功体験」と呼ぶのかもしれませんが、私たちは「強化学習」の一種であると捉えます。

池谷裕二の名言|人はできるだけ多くのご褒美を得ようと行動する
年末の大掃除などがよい例で、初めは嫌々始めたものの、いざ掃除を始めると次第に気分が乗ってきて、いつの間にか部屋がきれいになっていた……という経験は誰にでもあると思います。頭のなかだけで考えていても億劫に感じますが、実際に身体を動かしてみると、やる気が出ることがあります。つまり、やる気とは、物事を始める前からあるものではなく、物事を始めたあとから発生するものです。やるべき仕事を前にして、「気分が乗らないな」とダラダラしている段階が、一番不幸な状態だといえますね。

池谷裕二の名言|やる気とは、物事を始める前からあるものではなく、物事を始めたあとから発生するもの
サイエンティストの仕事において最も重要なのは、プレゼンテーション能力なのではないかと思います。世界共通の言葉で他人に伝えられなければ、サイエンスの世界での「わかったこと」や「発見」にはなりません。

池谷裕二の名言|サイエンティストの仕事において最も重要なこと
研究に非常に長い時間をかけてはじめて、サイエンティストはサイエンティストになれると言えるでしょう。いまは労働基準法がどうであるなど、仕事をやりすぎたらダメだという風潮もあるけど、私の実感で言うなら、やはり研究はやりすぎなければ成功しないものであろうとは感じています。長くやりさえすればいいとは思いませんが、長い研究時間というのは、まずはサイエンティストであるための前提条件なのです。

池谷裕二の名言|研究はやりすぎなければ成功しない
研究のコツはコミュニケーションに尽きると思っています。世間一般のサイエンテイストに対するイメージは「研究室に閉じこもっているんだろう」だと思いますが、本当に閉じこもっているのはダメな研究者なのではないでしょうか。

池谷裕二の名言|研究室に閉じこもっているのはダメな研究者
基本的に、発見(わかる)から発表(伝える)までにはたいへんに時間がかかるものです。だいたい、どのような発見を発表するのだとしても、1年以上はかかるのではないでしょうか。以前に、世界でも有数の大発見をなさった日本人研究者に「発見から発表までの時間の長さ」について聞いたことがあります。すると、「自分の場合には5年から7年だな」と言われました。見えているのに説明できないことも、たくさんあるんですよね。

池谷裕二の名言|発見から発表までには大変時間がかかるもの
目の前にある「すごい」という事実を整理整頓し、サイエンスの世界で理解される範囲のワクの中にパッケージングしなければ、論文にはなりません。そうして言語化していくプロセスは苦しいですけど、「このように見せていけばいいじゃないか」と考え抜くという、伝えるための試行錯誤は楽しいものでもあります。論文執筆前に学会などで発表すれば、「こうやれば伝わるのか」「こう言うと伝わりにくいな」と当たりもつかめます。

池谷裕二の名言|伝えるための試行錯誤の大切さ
アイデアというのは、いつでもボンと生まれるわけではありません。スランプもあります。そこで裏切らないのは「道具」ですね。技術の発見から生まれるアイデアには、スランプはないんです。実験をする道具に、最新の技術を組みこんで改造したら、かならず発見がある。

池谷裕二の名言|技術の発見から生まれるアイデアには、スランプはない
自分のいる研究室で、いつものみんなに会うことは刺激にはなりません。研究室のメンバーというのは、同じような考え方で同じ話をしますので。大切なのは、研究室の外にいる人に会うことです。

池谷裕二の名言|いつも会わない人と会うことの大切さ
学会や講演や会議などで発表をしたり、発表をせずとも、積極的に外部の懇親会に参加をする。これが大事なんです。学会の後で開かれる懇親会(飲み会)はサイエンスの議論をする場所ではないけれど、顔を合わせれば、自然に研究の近況について話しあいますよね。「あの分野の研究なら、○○さんを紹介しましょうか」「その実験は、こういう方法でやるのはどうだろうか」。そういったコミュニケーションの中に、思いがけないヒントが隠されているのです。後日、メールなどで「あの時に話していたあの研究は……」と示唆をいただくこともあり、またその逆にこちらが相手にとっての参考になることもあり、そうした相互援助で研究が向上していくんです。

池谷裕二の名言|他者とコミュニケーションをすることで思いがけないヒントが得られる
サイエンティストは、サバイバルをしていくうちに、サイエンスの真理さえも政治が決めるという部分があるのだ、と体験するものです。「小さい頃にサイエンスの世界にのめりこんだ時には、純粋に真理を求めるという美しさが好きだったのにな」と駆け出しのサイエンティストは幻滅するのかもしれません。ただ、幻滅したとしても、知的好奇心を持ち続けられるのかどうかが、サイエンティストの研究人生を左右するのではないでしょうか。

池谷裕二の名言|サイエンティストの研究人生を左右するもの
私が研究生活を続ける中で、はじめて「サイエンスの研究とは、本当はこういうものだったのか」と実感したのは、2年間、コロンビア大学に留学していたときでした。世界中から集まって来た最先端の研究者たちを観察していたら、日本のサイエンティストたちとは「集中力」と「議論をする力」が根本的にちがうな、と気づいたのです。日本の大学では、食事や休憩のときに研究の話をはじめると「おい、メシの時ぐらいは研究の話はやめようや」と面倒なやつのような扱いをされたけれど、コロンビア大学では、四六時中、ものすごく濃く研究についての議論をしていました。私は幸い、自分の関わるジャンルにおいて、まさに世界最先端と言える研究室に留学できたのですが、そこでは世界最先端とはいえども研究している時間そのものはそれほど長くはなくて、とにかく、議論によって濃い時間を蓄積しているのだ、と自分なりにはわかりました。結局、アイデアは、コミュニケーションからしか生まれないようなのです。

池谷裕二の名言|アイデアは、コミュニケーションからしか生まれない
個人でやる研究というのは、どうしても成果があがりにくいんです。なぜかと言えば、個人の視点というのは狭すぎるから。研究も思考も、つねに第三者の視点を必要とするものでしょう。研究室の中でも第三者の視点に触れられるのは、論文を読むことですね。他人の論文には常に刺激をもらえると言うか、論文を読まない人もまたよくない研究者なのではないでしょうか。

池谷裕二の名言|個人の視点は狭すぎる
私も、20代の頃には社会性もなく、研究室に閉じこもりたがるタイプでしたが、嫌々でも何でも学会に出かけてみたら、そのうち、外出をすればものすごくたくさんの収穫があるものなんだと気づきました。自分の発表に対する反応を見れば、どのように受けとめられる研究なのかも直にわかりますし。
池谷裕二の名言|外部の集まりに参加してみることの大切さ
言語化しなければ、自己満足で留まってしまいます。少なくともサイエンスの世界においては、発表する能力がなければサイエンティストでさえないのです。当然、そのままでは、サイエンスの世界では「優秀ではない」と評価されてしまうでしょう。

池谷裕二の名言|発表する能力がなければサイエンティストでさえない
私は、ものごとについて「俺だけは知っている」と思うことはできません。きつい言い方かもしれませんが、「俺だけは知っている」では、ものごとをわかったということにはならないのではないでしょうか。「オタク」や「おままごと」に過ぎないのかもしれません。他人の批判にさらされない思考は、そもそもいいのかダメなのかさえ、判断ができないものなのでしょう。歯がゆいですけど、言葉や数式にしなければ本人にもわからないままで、発見や理解について他の人たちに伝える時には、かなり話を噛み砕かなければならない。

池谷裕二の名言|他人の批判にさらされることの大切さ
論文を書く時には、私は物語を作らなければならないと考えています。物語をどのように展開するのかによって、同じ発見でもまるで違うものに見えますから。素晴らしい発見をしたとしても、もしも物語を語ることができなければ、「実験屋さん」のままなのですね。

池谷裕二の名言|論文を書くときに大切なこと
サイエンスの研究に対する評価というのは、論文の成否に左右されるものです。私も、2004年に『サイエンス』(世界最高峰の科学雑誌)に論文が載ったからこそ、研究を進められているのです。もしも結果が出ていなければ、今頃、研究費に飢えていたであろうというのは容易に想像ができます。
池谷裕二の名言|研究に対する評価は論文の成否に左右される
経済の取引、たとえば株の判断でいえば、人は自分の意志で株を買うわけではありません。8割以上が過去の経験と、それが反映している反射行動の癖によります。むしろそう考えた方が、妙な自信過剰にならなくて済み、冷静な判断ができているともいえそうです。

池谷裕二の名言|人が判断するときは8割以上が過去の経験と反射行動の癖
研究者は誰でもみな文献をよく読みます。最先端の世界についていかねばならないからです。私が異常なのは、それを文章で引用して外に発信することです。研究会などで「そんな文章を書いている暇があったら、とっとと実験しろ」とよく叱られます。しかし、他の人がスポーツなど趣味にいそしんでいるときに、私は文章を書いているだけです。私自身は飽きっぽくてひとつのことに集中できない性質であり、自分の研究に役立たなくても、それらを読んでいるだけで楽しい。
池谷裕二の名言|飽きないように幅広い分野に接することの大切さ
入力するだけではダメ。テストの点が高いのは参考書を何度も読む人より、問題集を何度も解く人のほうで、出力を磨くほうが脳は成長します。仕入れた情報を人に話して、出力を心がけるのが大切です。
池谷裕二の名言|出力を磨くほうが脳は成長する



池谷裕二の経歴・略歴
池谷裕二、いけがや・ゆうじ。日本の薬学博士、脳科学者。専門は薬理学、神経科学。海馬、大脳皮質を研究する。静岡県生まれ。東京大学大学院薬学系研究科で薬学博士号を取得。コロンビア大学客員研究員を経て、東京大学大学院薬学系研究科講師。脳の研究を一般にわかりやすく紹介する著書を数多く出版している。主な著書に『進化しすぎた脳』『海馬』『単純な脳、複雑な「私」』など

耳を掩(おお)いて鐘を盗む

日報抄 10/14

 ある男が鐘を盗んだが重くて運べない。割ってしまえとツチでたたく。ゴーンと大きな音が響いた。人に聞かれたらまずいと思わず自分の耳をふさいだ。この故事から生まれたことわざは「耳を掩(おお)いて鐘を盗む」である。

意味は二つある。まず、悪事は隠そうと思っても人に知られるものだという教え。もう一つは、良心に反することと知りつつあえて考えないようにする愚かさである。数々の企業の不始末を思い返すにつけ、二つの意味の重みを知る。

神戸製鋼所のアルミ・銅製品の性能データ改ざん問題は、主力の鉄鋼事業にも波及した。不正を把握しながら公表は大幅に遅れた。問題製品の納入先は約500社に拡大し、その影響は計り知れない。

神戸製鋼所企業倫理綱領」にこう書かれている。「人の健康または安全が危険にさらされる場合には、社会への迅速かつ的確な情報の公開と説明責任を遂行する」。今回は安全性に影響がないものもあるというが、全製品についてきちんとした調査と説明が必要だ。

過去にデータ改ざんを行ったグループ会社が今回の不正にも含まれていることも分かった。問題は製造部門にとどまらない。先ごろグループ全体で約11億円の申告漏れを指摘された。一部は所得隠しと認定され、追徴税を納めた。

ラグビー日本選手権で、神戸製鋼を7連覇に導いた平尾誠二さんが亡くなって間もなく1年。屈指の名選手が磨いた看板に恥ずかしくない企業に生まれ変われるのか。これからの対応次第である。

20171014131005282.jpeg

201710141310050d9.jpeg

20171014131005d98.jpeg